「頑張りすぎなくてよくなった」

――1on1の導入前と導入後とで、なにが大きく変わったのでしょうか

原田:管理職としては、頑張りすぎなくてよくなった、ということでしょうか。相談されたら答えなきゃいけない、課長自身が全部してあげなきゃいけない、みたいな人が多いんですよ。

井出:私も、何を聞いても答えてくれるのが課長である、って思ってましたね。

原田:そうじゃない、ということに、1on1を始めてからみなさん気付いたんだと思います。メンバーの情報があった上でマネジメントできますから、自分だけで頑張りすぎなくていいんです。

 あとは、自分自身もですけど、「こんなこと課長に言っていいの?」みたいなことはなくなって、自分の思いを会社に言える雰囲気は出てきている、と思いますね。

井出:現場からすると、組織の方針が見えるようになりましたし、もっと端的にいうと、上司との対話が増えました。報告ではなくて、対話ですよね。

 対話が増えたので、上司が今どういうふうに思ってるとか、どういう癖があるとかっていうのもわかるようになりました。

 上司の方も、自分の部下が今どういうボールを持って、どういうふうに考えてるのかっていうのもわかるんだと思います。

――スタートから3年、今は理想形のどこまできていますか?

原田:さっき言ったように二極化しているので、もう少し浸透していくように仕掛けていかなきゃいけないかなと思います。

 1on1は何のためにするのかについて、部下との認識のギャップを埋めていくようなことも、まさに今やろうとしています。

 それからもう1つが、上司、部下の1on1だけではなく、たとえば担当同士とか、隣の部署とか他の部門と壁打ちするようなことが当たり前の文化にしていきたいですね。これは個人的な思いですけど。

井出:これからは、1on1をいかに使いこなしていくか、という話だと思うんです。さっき話したように、課長もいろいろと悩んでいるので、課長同士の1on1などももっともっと広がればいいなと思いますね。

会社を変えた「危機感」

――1on1は、「組織風土改革」全体の中で、どういう位置付けなんでしょうか。

井出:「ツール」でしょうか。変革プロジェクトには本当に施策がたくさんあるんですが、1on1っていろんなものをうまく進めるためにあるというイメージかな、と思いますね。

原田:「この課題を解決するために1on1がこう作用する」みたいな話じゃなくて、1on1をやっていくと、気が付くとこれとこれとこれがうまくいっている、という感じでしょうか。

――最後に、なぜ1on1をここまで浸透させることができたのでしょうか

原田:「このままでいることへの危機感」だと思います。そこが一番大きかった。みんなが何をしたらいいかわからない「乾いた状態」になっていたときに、ポンと渡せる、いいタイミングだったのだろうと思うんです。3年かけてやってきましたけど、そうでなかったらもっと時間がかかっていたでしょう。

井出:そう思います。当初私は、人数が多い事業所には不向きだとか、製造部とか工作部門にはこれは合わない、などと思っていました。でも、何かしなければならない、というときに、「これならできるかも」と思うことができたのがよかったのでしょうね。

(本記事は、『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』に関連した書下ろし記事です)