ソシオネクストは日本版メディアテックに脱皮できるのか。それとも新しいファブレスの雄を育てるべきなのか。いずれにせよ、工場ができても作るものがなければ意味がない。

インテルすら見落としてしまった
「次」を勝ち抜くビジネスモデルは?

 勝てるビジネスモデルは常に変化する。インテルがまさにその変化に苦しんでいる。そして、川上の半導体からスマホなどの最終製品までの垂直統合経営で一時は無敵にさえ見えたサムスンも、半導体の収益力と技術競争力が落ちてきて、1990年代以来の経営の岐路に差し掛かかっている。

 坂本が繰り返したスピード経営の大事さ、市場と組織の現場に直結した情報収集に基づくビジョンの頻繁なアップデートの大事さが、ますます増しているといえる。若林は経営者としての坂本を高く評価している。

「坂本さんは独特な毒舌のため、異色の経営者などと呼ばれましたが、意思決定のスピード重視とか、必要な設備投資はきちんとやるとか、フラットな組織とか、実践したことも唱えたことも極めてオーソドックスな経営の王道を行くものでした。逆にそれを異端視してしまう多くの日本の大手電機の経営層の方にこそ問題があったと思います」

 そのうえで若林はこう期待を込める。

「日本の半導体産業は今度こそ、技術トレンドの先を見据えたビジネスモデル思考で、先手を打って攻める経営をやってほしい」

 若林の期待は坂本が残した言葉と共鳴する。一敗地にまみれたニッポン半導体の復興。それに向けて動き出した人々は今こそ耳を傾けるべきだろう。