「例えば日本が強いのは自動車でしょう。これから電動化と自動運転化で自動車のパラダイム転換が起きていくときに、肝心の自動運転AIのソフトとハードを押さえないで、どうやって世界で戦っていくのか。僕ならその辺りの課題をとっかかりにロジック半導体のビジネスモデルを考えていくと思います。自動車メーカーは自動運転に必要なデータも大量にためているはずです。うまく活用すれば、自動運転AI向けの新しい車載半導体とソフトウエアの大きな需要を掘り起こせるはずです」

「バラバラのままでは勝てない」
坂本幸雄が残した集約による逆転策

 もう1つ、坂本が日本の電機業界に言い残したのは、日本が強い半導体品種を集約して世界のトップシェアを取るべきだという話だ。

「日本企業のディスクリート(編集部注/単一機能の半導体。信号増幅などに使うトランジスタ、電流を一方向に流すダイオードなどがある)の世界シェアは全部合わせると25%になります。集約してブランド強化すればもっとシェアが取れる。仮に4割、5割取れれば、安定した高収益企業になります」

「日本のアナログ半導体も10社超で世界の13%のシェアを分け合っています。1社か2社に集約して開発と設備に投資すれば、もっと高い世界シェアを確保できるはずです。経済産業省は、どうせならそういうところで国の戦略としてリーダーシップを発揮すればいいと思います。各社に構想に乗るかどうか決断を迫る。ちゃんとしたCEOを付けて、株をもたせて、成功したらちゃんとキャピタルゲインが入るようにすれば、やる気を出して経営を引き受ける人材も出てくるでしょう」

 1980年代から日本の電機業界をつぶさにウオッチし、2020年から坂本を自分の主催する「技術経営(MOT)」専攻コースの客員教授に招聘した東京理科大学教授(2025年4月から熊本大学卓越教授・立命館大学名誉教授に就任予定)の若林秀樹は、「何かの製品や事業の話をするときに、最初からビジネスモデルとセットで語れる坂本さんのような思考回路がないと、テクノロジー企業の経営は難しい」と指摘する。