女性の話す下ネタが
お経に聞こえた時代

『農夫と神様』の歌では、病気のお母さんのために薬を探しに来た農夫の母を思う優しさに胸打たれた神様が「おまえの望みを1つだけ叶えてやろう」と言います。そこで農夫は「お母さんの病気を治す薬をください」と言うはずなのに「大きなイチモツをください」と言うので、観客は笑ってしまいます。

 彼らはミュージカル風に真面目に歌うことにすべてをかけて、そこに力を注いでいるのです。このように芸として突き抜けている場合には大ウケしますが、中途半端だとシラケてしまいます。

 どぶろっくの下ネタは芸として完璧に仕上がっているので通用していますが、一般の人が下ネタで笑いをとるのは今、非常に難しい。スベるだけでなく、ハラスメントに引っかかる可能性が高く危なすぎます。いちばんまずいのは、パワハラ、セクハラ。ハラスメントをしてはもう終わりです。

 かつてジョークの3分の1くらいが下ネタでした。世界のジョークを見ても、かなりの部分で下ネタが多い。下ネタというものが温かく笑われていて、中年女性が若い男性に下ネタを言ってからかうこともよくありました。

『夜這いの民俗学』(赤松啓介著・明石書店)には、男性が女性にではなく、年長の性経験豊富な女性が積極的に下ネタを言って若い子をからかう様子があります。下ネタは男性が言うものとは限りません。

 明治・大正・昭和の時代を支えた国語の教育者である芦田恵之助は、電車のなかで女性たちが下ネタで爆笑しているのを聞いて「お経のように聞こえる」と言ったくらいです。下品ではなく、むしろ、ありがたいもののように聞こえると。そういう時代がありました。

 とはいえ、時代は変わりました。私は先日あるパーティーで「乾杯の挨拶と女性のスカートは短いほうがいいと言われていますので」というジョークを聞き、この令和の時代にまだ、こんなことを言う人がいることに驚きました。