お笑いコンビNON STYLEPhoto:SANKEI

漫才では自虐ネタやハゲネタは珍しくないのですが、多様化が叫ばれる昨今、お笑い界にもコンプラの波が打ち寄せてきています。NSC(吉本総合芸能学院)の講師として若手を教える立場にある、お笑いコンビ「NON STYLE」石田明氏が、時代の変化や若手の育成、漫才と芸人の未来について考えます。(お笑い芸人 NONSTYLE 石田明)

※本稿は、石田 明(著)『答え合わせ』(マガジンハウス新書)の一部を抜粋・編集したものです。

今の若手は「見せ方」が足りない

 僕らの世代が劇場やテレビでお笑いを見ていたころと違って、今はサブスク、見逃し配信、YouTubeなど、好きなときに好きなものを、好きなだけ見られる環境があります。それだけでなく、好きなスピードで見ることまでできてしまう。

 これが芸人を志す若い子たちにとっていい環境なのかどうか、正直、わからなくなることがあります。それだけ学ぶチャンスが多いと捉えれば、お笑いのコンテンツがたくさんあって、いつでも見られるのはいいことなのかもしれません。

 その反面、お笑いコンテンツへのアクセスがよすぎて、自分でやってみる前に情報過多になるのは考えものかもな、とも思います。表層的に手段を真似るだけで、「ナマの会話として見せる」という漫才の基本が置き去りにされかねないからです。

 現に、僕が教えているNSCの生徒たちを見ても、そう思うことが少なくありません。先輩たちの漫才を表層的に真似しているだけで、もったいないなと思う子たちもいるんです。

 たとえば、「後半に行くほどツッコミのボルテージを上げて、盛り上がりをつくる」という手法があります。ただ、これを真似して、「ツッコミの声を大きくして、振る舞いも大げさにしていく」だけだと、お客さんはついてきません。

 実は、ここで一番大事なのは、「ツッコミのボルテージが上がっていくことに、見ている人たちが違和感を抱かないようにすること」なんです。

 NONSTYLEには、「井上がやりたいことを石田が邪魔する」というネタがあります。

 ここで井上のツッコミのボルテージが上がっていくのは、「何度も何度もやりたいことを邪魔されたら、どんどんイライラしてくるのが人情として自然」だから。お客さんが井上のイラつきに違和感を抱かず、共有できるからこそ、僕のボケがうまくハマる。そこで笑いが起こるというメカニズムです。

 漫才では「どんなボケ」「どんなツッコミ」「どういう盛り上げ方」ということ以前に、どれだけナマの人間同士のやりとりに見せるかを考えなくてはいけません。