消費税減税で消費者は得をするのか

 消費税率の引き下げと引き上げの非対称性は何を意味するのか。

 フィンランドの事例では、課税後価格は消費税減税でいったん下がるので、そのタイミングで消費者は得をする。これは消費税減税の効果として多くの人が想定するものだ。ただし、転嫁率は0.42にすぎないので、減税のメリットを消費者が独り占めできるわけではなく、売り手などに渡る部分も少なくない。

 より興味深いのは減税終了後だ。税率を元に戻す際の転嫁率は0.76と高いので、価格は減税実施前より高くなり、消費者は損失を被る一方、売り手は価格上昇で利益を得る。

 フランスのレストランにおける減税事例について推計した研究によれば、減税の利得のうち消費者の取り分は2割を切る。それと対称的に企業経営者の取り分は5割超と消費者の取り分を大きく上回る(詳細は以下を参照。Y. Benzarti, D. Carloni. “Who really benefits from consumption tax cuts? Evidence from a large VAT reform in France” AEJ: Economic Policy 11.1 (2019))。

 これら欧州の事例から学ぶべきは、消費税減税が行われたとしても、消費者が利得を独り占めできるわけではないという事実であろう。

「ロケット」と「羽根」

 引き下げと引き上げの非対称性は欧州に固有のものだろうか。おそらくそうではなく、日本でも程度の差こそあれ、非対称性はあると筆者は考えている。

 そう考える第一の理由は、そもそもこの種の非対称性は消費税率の変更時に限らず、広く観察されているからだ。

 例えば、原油価格の上昇局面ではガソリンの小売価格も上昇する一方、原油価格が下落に転じるとガソリン価格も下落する。ガソリンを生産するコストが変化するのだからそれに応じて価格が変化するのは当然だ。

 しかし日本を含む多くの国で観察されているのは、原油価格の上昇時はガソリン価格が迅速かつ大幅に変更されるのに対して、下落時の価格調整はゆっくりで、なおかつ小幅という非対称性だ。

 コストの上昇に伴って価格が上がるときには「ロケット」のように急角度で上昇するのに対して、逆にコストが下がるときには価格は「羽根(feathers)」のようにゆらゆらと緩やかにしか落ちないという意味で、この非対称性は「ロケット・羽根」現象と呼ばれている。

 日本でも、円安時には価格が即座に反応するのに円高時の反応が鈍いことはよく知られているが、これも「ロケット・羽根」現象の一種だ。