「ロケット・羽根」現象はなぜ起きるのか
消費税率引き下げと引き上げの非対称性が日本にも当てはまると考える第二の理由は、「ロケット・羽根」現象が起きる仕組みに普遍性があるからだ。この現象が起こる仕組みに関して最近注目されているのは以下の仮説だ(詳細は、S. Rebelo, M. Santana, P. Teles. “Behavioral Sticky Prices.”を参照)。
ある商品を買うか買わないかを消費者が決める際の判断基準はその商品の価格だ。価格が昨日より上がったり下がったりしていれば、新しい価格が妥当かどうか、消費者は真剣に検討する。
一方、その商品の価格が昨日と同じであれば、多くの消費者は、その価格が妥当か否かを改めて検討することはしない。価格が以前と同じなのに再検討するのは時間のムダと考えるからだ。
つまり、買うか買わないかの意思決定の仕方は、価格が昨日から変わっているか否かで大きく異なる。企業は価格設定の際に消費者のこの癖を利用するというのが、この仮説の肝だ。
企業の生産コストが低下した場合、「価格を下げる」と「価格を据え置く」の2つの選択肢がある。
ここで注目したいのは、これまで価格据え置きを続け、前例踏襲の惰性で買い続けてもらってきた企業がどちらを選択するかだ。こうした企業は、コストが下がっても価格を据え置く傾向がある。なぜなら、価格引き下げを契機に、消費者の真剣な検討モードのスイッチが入り、「寝た子を起こす」結果となり、最終的に顧客が離れてしまうリスクがあるからだ。
多くの企業が「寝た子を起こす」効果を怖れ価格を据え置く結果、コスト低下にもかかわらず平均価格が下がりにくいという、価格の硬直性が生じる。