正の電荷をもつイオンの中を負の電荷をもつ自由電子が通過すると、周囲の正電荷のイオンがわずかに電子に引きつけられて振動を始めます。これが格子振動です。格子とは、ここではイオンのことだと思ってください。
すると今度はその格子(+)のすぐ近くにいた別の自由電子(-)が引きつけられます。結果として、2つの自由電子が格子振動によって引きつけられて格子を通過した(=2つの電子に引力が働いた)ように見えるのです。
そして彼らは、これを量子力学の言葉で厳密に導きました。格子の振動による波は、量子力学的には「フォノン」と呼ばれる量子が伝わることとして表されます。そして2つの電子の間に引力が働くことは、2つの電子がフォノンをやりとりすることで引力が生まれると解釈されることを示したのです。
こうしてできる2つの電子のペアを「クーパー対」といいます。クーパー対も量子です。2つの電子がクーパー対を作ると、電子とまったく性質を変えるのです。それはこういうことです。
クーパー対により
電気抵抗がゼロに
そもそも電子はフェルミオン(編集部注/素粒子を分類するカテゴリーの1つ。素粒子が持つ固有の角運動量であるスピンが半整数の素粒子がここに含まれる)として分類される素粒子(物質の基本的な構成要素で、すべての素粒子は量子)でもあります。
しかし、多数の粒子どころかたった2つの粒子ですら同じ状態になることはできません。集団行動どころか、2人ですら同じ行動がとれないワガママな性格です。そのため、金属中の自由電子も同じ運動状態になることはなく、少しずつ違った運動状態になっています。
さて、「電気抵抗がある」というのは、「電荷の運び手である電子がフォノンと衝突することで個々の電子がバラバラの運動になっていてスムーズに電子が流れない」と読み替えられます。
すべての電子がまったく同じ運動をすることができれば、電気抵抗はゼロとなるのですが、フェルミオンである電子は、集団で同じ行動がとれないため、どんなに温度を下げても電気抵抗がゼロになることはありません。
ところが電子がペアを組んでクーパー対になると、フェルミオンからボソン(編集部注/素粒子を分類するカテゴリーの1つ。素粒子が持つ固有の角運動量であるスピンが整数の素粒子がここに含まれる)として分類される素粒子に変わります。
1つ1つの電子=「フェルミオン」グループの素粒子
↓
クーパー対になった電子=「ボソン」グループの素粒子
ボソンは低温になるとすべての粒子が完全に同じ運動状態になるという性質をもっています。電子がクーパー対になると集団行動が大好きになるのです。