
SF映画ではお馴染みの瞬間移動=「テレポーテーション」。人ならざる者が操る超能力の一種だとされているが、実は量子力学の世界では起こりうる。何しろ、「量子テレポーテーション」は、次世代の量子通信や量子コンピュータを実現するために必要不可欠な技術なのだ。では、これを応用して実際に人間が瞬間移動することはできるのだろうか?※本稿は、二間瀬敏史『量子テレポーテーションで人間は転送できるか?やさしく読める量子力学』(さくら舎)の一部を抜粋・編集したものです。
量子テレポーテーションで
人間は瞬間移動が可能か?
人や物が一瞬で別の場所に移動するテレポーテーションはSFではよく出てきます。そんなことは可能でしょうか。
辞書などには、テレポーテーションとは超能力の一種で瞬間移動すること、と説明されています。人間がテレポーテーションしたとき、人体を構成する物質がミクロに分解されて移動し、別の場所に現れて再合成される、というイメージをもっている人も多いかもしれません。
しかし、量子力学で考えられているテレポーテーション(量子テレポーテーション)はまったく違っています。そして、そのテレポーテーションは次世代の量子通信や量子コンピュータに必要不可欠な技術です。
量子テレポーテーションを量子オセロ(編集部注/「量子オセロ」には両面があるが、片方が白、反対が黒というわけではない。観測者が見たときに確定するが、誰がいつ見るかによって状態は変わりうる)の例で見てみましょう。
情報を送る人をアリス、それを受け取る人をボブとします。Aさん、Bさんとするよりも親しみがもてるので、この名前がよく使われます。3人目としてイニシャルがCのクリスに登場してもらいます。
クリスは自分のもっている量子オセロCの「状態」の情報(白と黒の状態のある特定の重ね合わせ。たとえば30%が白で70%が黒)をボブに送ってほしいとアリスに頼みます(量子オセロCそのものを送るわけではない)。