「北斗星」が予想を上回る大人気
寝台特急が移動手段から観光目的に変化
そんな中、1988年の津軽海峡線(青函トンネル)開業で登場した寝台特急「北斗星」は、JRの予想を上回る人気を集めた。これにより夜行寝台列車は、従来のビジネス主体から、乗車体験そのものが価値を持つ観光主体へと性質を変え、2015年までの第二期黄金時代を迎えることになった。
1988年の業界誌『車両と電気』で、JR北海道の鉄道事業本部長が「津軽海峡線の人気と今後の課題」と題して、「寝台特急北斗星は指定がとれないとの苦情が多く、有難いことだと思いつつ頭を痛めている。とりわけ特別個室のロイヤル、B個室のデュエット、ソロなどの人気が高く、ロイヤルは幻の切符」との、うれしい悲鳴を記している。
同時に、記事からは北斗星ブームの裏側も見えてくる。同社は「飛行機では絶対不可能な豪華な寝台車、食堂車のついた列車で、鉄道の旅を楽しみたいという人々が、最近の旅行ブームの中で結構数多くいる」と分析しているが、これはバブル景気を背景とした旅行・リゾートブームの影響が大きかった。
一方で興味深いのは「往復3万2千円の割引切符は、飛行機プラスホテル代と比較すると非常に安く、若者やビジネスマンに経済的と人気があり、航空機から北斗星利用に切り替えた」例があるとの記述だ。
「札幌・函館往復割引きっぷ」は津軽海峡線開通にあわせてJR東日本が発売したきっぷで、割引率は2割以上。東京都区内から函館は2万9000円、札幌は3万2000円、東北新幹線と在来線の指定席、B寝台を組み合わせて利用できた。
1988年の羽田~千歳間航空便は、初便であれば羽田空港午前7時10分発、千歳空港午前8時35分着だが、片道2万5500円、往復4万6000円だった。「北斗星」1号は上野駅午後4時50分発、札幌駅午前8時53分着である。
高度成長期に生きた当時の経営者からすれば、飛行機も鉄道も同じ時間に到着するのであれば同じという感覚だったのだろうが、個人旅行であればともかく、16時間も北斗星に乗せられるビジネスマンはたまったものではない。