手を動かし、カンを磨き
指先から戦略を生み出せ

「感じる」という点では、アートとは関係ありませんが、経営学者の野中郁次郎先生の話が印象深く残っています。野中先生は今年1月に亡くなられましたが、以前、2時間ほど食事をしながら話をする機会をいただきました。

 昼間でしたが、野中先生は赤ワインを飲まれながら、「大崎さん、私はもう飽きました」とおっしゃったんです。

 正確な言葉は失念しましたが、要はPDCAサイクルを回すとか、KPIがどうとか、フレームワークの3C分析や4P分析がどうとか、そういうことに飽きたと。

 そして、もう一度、白い紙に向かって、ペンを持って、手を動かして、ゼロから考えたいという話をされたんです。世界に誇る経営学者の野中先生が、そういうことをおっしゃった。

 その会食の前後だと思いますが、『野生の経営』という共著を出されて、その流れの中で野中先生はそうおっしゃったんだなと。僕なりにまったくその通りだなと納得しました。

――従来の経営手法、セオリーが通じない時代になったということでしょうか。

大崎 何事も疑ってかかるというか。まずは否定して、でもどうしても否定できないものは、本質に近いところなので、残していくみたいなことかなと、僕なりの理解だから浅いんですけど、そう納得しました。

 そういう意味で言うと、ベタな言い方になりますが、高くアンテナを立てておいて、カンを磨いて、「カン」で判断することも大事になると思っています。

 それは単なる思いつきの判断ではなく、アート作品も含め、いろいろなものと向き合う中で、そういうカンを磨いた上でということです。

 それは野中先生がおっしゃるような、手を動かし、指を動かして、真っ白な紙にペンを持って、そこから考えるということにも通じるんじゃないかなと理解しています。