今、日本中のトップリーダーたちがこぞって熱狂する加納節雄という画家がいる。加納氏は2022年、芸術界に衝撃を起こした。世界遺産であり、重要文化財・国宝に指定されている京都の東寺、仁和寺、東本願寺という由緒ある寺院で個展を開催したのだ。この展示会は2022年7月19日から9月19日まで行われ、驚くべきことに延べ2万人もの来場者を動員した。しかも、画家デビューしてから数年という。

「ビジネストップリーダーとアート思考」と題した本連載では、ビジネスリーダーたちに、なぜ加納氏に魅了されているのかを語ってもらう。ビジネスの場でも「自分目線で自由に発想する」というアート思考が注目され始めた今だからこそ、耳を傾けたい。第3回は、長らく「日本の笑い」を牽引してきた吉本興業前会長の大崎洋氏にインタビューした。お笑いとアート思考は一見共通点がないように思えるが、大崎氏がそこに魅かれる理由は何だろうか。(構成/田之上 信)

「問いを立てる力」が試される時代
アートが果たす役割

――加納節雄さんの作品の展示プロデュースをされるとお聞きしました。どのような展示になるのでしょうか。

ダウンタウンを育てた吉本元会長が語る、日本のお笑いがAIに絶対負けない理由photo by:Enzaki Tomohiro

大崎 まだはっきりとは決まっていません。加納さんの作品にはものすごいパワフルさを感じます。その圧倒的な作品群をどのように見せれば最も効果的なのか。水性マジックペンのインクで描かれているので、明るいところ、暗いところなど、照明の当て方などにも工夫を凝らす必要があると思っています。非常に悩ましく、専門家をはじめいろいろな人の意見を聞きながら考えていきたいと思います。

 大事なことは、絵を見る人それぞれが加納さんの作品と向き合って、何を感じ取るのかだろうと思っています。

 近年、大規模な自然災害が相次ぎ、また新型コロナウイルスの世界的大流行が起きるなど、まさに将来が予測できない社会になりました。

 そうした中で、「1+1=2」ではないことが増えています。「1+1」の答えは、人によっては「3」かもしれないし、「10」かもしれません。数字ではなく、「玉ねぎ」とか「米国」といった抽象的な表現で答える人もいるかもしれない。それぞれが答えを探さなければいけない時代になっています。

 しかも、その「1+1=?」という問いすら、誰かが与えてくれるわけでなく、自らが問いを立てなければならなくなっています。

 そうしたことをアート思考というのかもしれませんが、いずれにせよ個々人によって違う問い、異なる答えをお互いに「なるほどな」と認める、理解しなければならない時代になっているのだと思います。

 そうしたときに、加納さんの作品群を見て、個々人が作品と向き合って、どんな問いを立て、どんな答えを導き出すのか。そこが大切な点ではないかと思っています。