「ダウンタウン」と「上場廃止」の決断力
失敗から磨かれた自分だけの物差し

――大崎さんがダウンタウンの才能を見出されたのも、そういうカンのようなものが働いたんでしょうか。

大崎 それはあるかもしれません。アートもそうでしょうし、漫才もそうですが、従来にない斬新なスタイルが出てきたときに、否定的にとらえる人もいれば、新たな可能性を感じて肯定的に評価する人もいます。

 僕はダウンタウンの漫才を見て、普通では想像できないようないろんな角度、視点からネタをつくる発想力、表現がすごく面白いと感じました。

 私が吉本興業の社長になったとき(2009年)に、60年以上続いた大証、東証の上場廃止を決断しました(2010年に上場廃止)。月次ベースの数字がどうで、四半期はどうでとか数字に追われながら経営するのは難しいと考えたからです。

 もちろん、経営は数字が重要だし、データドリブンで裏付けを取って意思決定をしたり、物事を決めたり、発言しなければいけないのは当然で、合理的な思考は大事です。

 しかし、不確実性の時代に、いわゆる虚業といわれるようなお笑いのビジネスで、誰が当たるか、当たらないかは、とりあえずやってみないとわからないことが多いのも事実です。

 数字よりも、もっとチャレンジしやすい会社にしたほうがいいなと、もっと楽しみながらカンも大切しながらやっていこうと思い、上場廃止を決めました。

 僕みたいに勉強が苦手で、ダメ人間の典型ですけど、でも、多くの失敗も経験する中で、自分と向き合いながら、自分なりの物差しみたいなものをつくってきたんだと思います。アホはアホなりにですね。

【PROFILE】
大崎洋(おおさき・ひろし)

1953年7月28日生まれ。大阪府堺市出身。実業家。1978年吉本興業入社後、NSCや劇場設立、ダウンタウン育成などに尽力。2009年社長、2019年会長を歴任し、著書『居場所。 ひとりぼっちの自分を好きになる12の「しないこと」』(サンマーク出版)、『あの頃に戻りたい。そう思える今も人は幸せ』(飛鳥新社)がある。