一方、説教された方は慣れてくる。相手の関心がどこにあるかがわかってくる。岡藤は次第に叱られること、説教されることをありがたいと思うようになっていった。

稼ぐにはお客さんが
欲しいものを探すこと

 営業の人間に必要な資質は相手を説得したり、論破することではない。知識を披露することでもない。それよりも、相手に関心を持ってもらえる存在になること、説教されるようなキャラクターに自分を仕立てることだ。会長になった岡藤はこう考えている。

「稼ぐには、まずお客さんに儲けてもらうことしかない。自分が儲けるためにはパートナーであるお客さんが儲かる仕組みを考えないといけない。これは大事な点で、普通なら自分を起点にして儲けの仕組みを考えがちだが、それではうまくいかない。

 商社だったら、メーカーや小売店さんの間に立って、モノや情報を仲介するから、商売を長期にわたって続けようと思ったら、お客さんが儲かる仕組みをひねり出さないといけない。最初は説教されることから始まって、商売をしてお客さんに笑顔になってもらう。そうでないと商売は長くは続けられない。

「これを守れば商社マンとして大成功する」…伊藤忠・岡藤正広会長が断言する「たった4文字」とは?『伊藤忠 商人の心得』(野地秩嘉、新潮社)

 時々、若い営業社員から質問があるわけです。『どうやったら儲かるか?』と。それは僕に聞くのでなく、お客さんに聞くべき。お客さんの所へ行って話を聞いて、そこから彼らが儲かる話を創意工夫する。商売には自分の意見は差し挟まないで、お客さんがいいというものにこだわるべき。

 では、お客さんが欲しいものをどうやって探せばいいのか。それは現場へ行くこと。お客さんに聞くこと。データを分析するより、ひとりでも多くのお客さんに直接、会って話を聞くことしかないんですわ」