「水は方円の器に随うという言葉がある。水は器に随い、器が丸ければその形になり、器が四角であれば四角にもなる。商人も水のようにお客さんに合わせなくてはならない。そんな意味です。
商人はお客さんが欲しいものを見つけて持っていく。お客さんというのはマーケットの要望。僕はしきりにマーケットイン、マーケットに聞けと言っているが、それはこの時の言葉から来ている。
全部とは言いませんが、日本のメーカーの多くは技術力があっても商売にしていないところがある。考え方がプロダクトアウトなんです。自分が作ったものにお客さんは合わすべきだ、あるいは自分が作ったものを必要と思うお客さんだけが買えばいい、と。それでは長続きしないし、世界のマーケットに対応できない。
ある世界的な素材メーカーのCEOとは同年齢の友人だからよく一緒にゴルフしたり、食事したりするのですが、彼は『岡藤さん、プロダクトアウトだとどこにでも売りに行ける』と言うんです。技術力があれば勝ちだ、と。
しかし、世の中には技術革新、流行、進歩、そして消費者の嗜好の変化がある。ひとつ変わればすべてが変わってしまう。スマホがいい例です。アップルは2025年以降に発売するすべてのiPhoneに有機ELパネルを採用することにした。これまで日本の素材メーカーが供給してきたのは液晶パネル。有機ELでは韓国、中国の素材メーカーが先を行っているから、日本メーカーはiPhoneの供給網から姿を消す。プロダクトアウトの思考を続ければこうなっても仕方がない。
だから、マーケットインでなくてはならない。つねにお客さんを見て、自分の商品を決める。どこでも売れるとはどこへ持って行っても売れなくなるリスクがあるということでしょう。
僕は繊維の営業を始めて以来、課長、部長、部門長から社長、会長になってもいまだに『商人は水』と思っている。新入社員、うちの会社を志望する学生には『商人は水』を守っていれば商社マンとして大成する、と言っています」