商人が持って行く手土産はビジネスマナーだ。「プレゼントしますから代わりに仕事をください。私の意見を支持してください」といった目的の行為ではない。常識外れの品物、高額過ぎる品物は禁物だ。自らを卑しめる行為だし、そもそも礼儀を知らない人物と思われるだけ。センスのある手土産をさりげなく渡すことができるようになったら、商人として第一級の人物と言える。

 同じ社内とはいえ、おじさんに男性用ハンドクリームを渡すことができるのはコミュニケーションの取り方が上手だからだ。そこにはたくまざるユーモアがある。もらったおじさんはハンドクリームが欲しかったというより、岡藤が手土産を渡した時の空気が心地よかったから、岡藤の意見を了としたように思える。

胡蝶蘭や祝電を受け取る相手の
手間や都合を考えるべし

 手土産についての話の続きである。

「僕は毎月、秘書から『来月、会う予定のお客さまはこれこれこういう方たちです』とリストをもらう。そのリストにはたいてい、果物とかお土産の品物の候補が書いてある。それをひとつひとつ眺めて、お客さんの顔を思い浮かべながら、考えて品物を決める。決める前に、会ったことのある人、お土産を渡したことのある人なら過去のデータも見ます。全部、調べてある。同じ品物を上げたら申し訳ないから、違うものにする。

 何を贈るかですが、僕はまず相手に喜ばれるもの、そして、旬のもの、値段もほどほどのものを選びます。なるべく贈らないようにしているのが胡蝶蘭とかよく贈り物としてもらうお菓子の類。胡蝶蘭は昇進祝いでもらったことがあるけれど、枯れていく花をひとつひとつ取り除いたり、秘書の手間が大変だ。それに大勢から胡蝶蘭をもらったら、置く場所に困るでしょう。

 祝電もなるべくやりません。かつて、社内の結婚式に出た時、部門長、部長、課長、主任、同僚とみんなが3000円くらいもする立派な祝電を送っているのを見て、ええ加減にせいと思ったことがある。みんなで相談してお金を取りまとめてワインの1本でも贈った方が新郎新婦はよほど嬉しいのと違うかな。