映画産業の苦境が止まらない香港
蔡さんの訃報のタイミングも多くの人たちをやるせない気持ちにさせた。というのも、6月末にはゴールデンハーベスト系列の映画館がすべて閉館することになっていたからだ。中には、そのホームページで蔡さんに対する哀悼メッセージを発表したわずか数時間後に、閉館のお知らせを発表した系列館もあった。
実のところ、香港では今年に入ってからずっと映画館の閉館が続いている。この動きは昨年から顕著になっており、昨年1年間に9館が廃業。そして今年は6月初めまでにすでに6館が、さらに同月末までに4館が閉館し、上半期だけですでに昨年の閉館数を上回った。うち2館はかつて海外からの招待客を招いてプレミア上映会なども行われてきた歴史ある大型映画館で、「アジアのハリウッド」と呼ばれて華やかだった映画界の思い出がいっぱい詰まった場所だった。
つまり、今の香港映画業界はかつてない苦境にある。日本では今年、香港映画としては久方ぶりに『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(以下、『トワイライト・ウォリアーズ』)が大ヒットしたばかりなので、この苦境ぶりを意外に思われる方もいるかもしれない。

だが、現実にはここ数年の製作本数は激減しており、それこそ1980年代の全盛期には1年に200本以上が製作されていたのに、今年上半期に撮影が開始された作品はなんと1ケタ台だと映画関係者も公の場で嘆くほどだ。
6月に現地で会った映画関係者の友人も「もう1年くらいなんの仕事もしていない」とぼやいていた。おかげで映画関係者の多くが副業で食いつないでいるものの、次第にそちらが本業になりつつある人も多く、「いざとなって声がかかっても、当人が望んでも必ずしももう現場に戻れない人たちも少なくないはず」という。
その結果、何が起こるか。
あのスピード感あふれる香港の映画の現場から「経験者」がいなくなってしまう、という現実である。特にこれまでにも中国国内の撮影所でセットを組んで「出張」撮影することが増えた結果、香港では若い人たちが現場の末端から経験を積んだプロになるための道が閉ざされてしまった。これがさらに急激に進めば今後、香港での映画撮影はさらに難しくなるだろうというのが、映画関係者の悩みである。