「『なぜ、そう思うの?』は、絶対にNGです」
「なぜなぜ分析」をはじめに「なぜ?」という問いは“論理的に考える”ための「良い質問」だと考えられている。しかし実は「なぜ?」「どうして?」は、致命的な「解釈のズレ」を生み、噛み合わない会話=「空中戦」を作り出してしまう元凶、「最悪の質問」なのだ。
「事実と解釈の違い。これに気づけていない人は、まだ確実に“曇りガラス”の中にいます」――。話題の新刊『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』では、世界・国内の各地で実践・観察を積み重ねてきた著者による「賢い質問の方法」=事実質問術を紹介している。本書に掲載された衝撃の新事実の中から、今回は「ありがちなNG質問」について紹介する。(構成/ダイヤモンド社・榛村光哲)

【まさかの展開】“ゴミだらけの村”が激変…村人を動かした「頭のいい人の“すごいひと言”」の中身Photo: Adobe Stock

「事実質問」は国際支援の現場で生まれた

「『なぜ』と聞かない質問術」は、書名そのままに、「なぜ?」「どうして?」と聞かないで、代わりに事実質問を使って対話を進めて行くことを強く勧め、そのための手法を紹介したものです。たとえば、「なぜ?」と聞きたくなったら、一度それを飲み込んで、代わりに「いつ?」あるいは「何?」と尋ねるべし、というようなスキルの紹介で全体が構成されています。

一見すると、世にあふれるコミュニケーションのハウツーものの一つに映るかもしれませんが、スキルのひとひとつは無数の実践に裏打ちされていると共に、アカデミックな理論にも基礎づけられている点において、他とは一線を画するものとなっています。今回は、その実践の頂点とも言える事例をひとつ紹介します。この手法の産みの親であり、私の相棒である稀代の名ファシリテーター、和田信明の実践例です。

「ゴミだらけの村」からゴミをなくせるか?

2008年の秋ごろ、インドネシア・スラウェシ島の海岸沿いのバジョ族の村を和田は訪ねました。バジョ族は、海の上で暮らす漂海民です。近年は定住が進んでいますが、生計は海で立てるしかなく、海岸に張り付くように集落を作っています。

そこでは、端も波打ち際も、菓子や洗剤のパッケージ袋、ペットボトルなど、家庭ごみが散乱していました。案内役の村の女性リーダーは「みんながポイポイ捨てるものだから、村はゴミだらけです。和田さん、これを防ぐいい方法はありませんか」と相談してきました。

あなたなら、ここでどう対応しますか? きっと、まず「なぜそうなるのですか?」と尋ねますよね。和田以外の援助ワーカーもまったく同じです。

するとリーダーからは、「村人は教育がなく、意識が低いから」とか、「ごみ箱や収集システムが整備されていないから」という答えが返ってきます。援助ワーカーは、「では、環境意識を変える研修をしましょう」、「収集システム整備を援助しましょう」などとこちらが用意したことを提案します。「なぜ?」⇒「〇〇がないから」⇒「ではそれを援助しましょう」となるわけです。こうして「研修のための研修」や「与えるだけで使われない援助」が進んでいきます。決して誇張ではありません。援助の現実なのです。

それは海外援助に限りません。国内の貧困対策や福祉サービスでも鉄板のパターンです。公的資金の無駄遣いの根源もここにあります。

しかし、ここで和田は違いました。