「シンプルなワードのみで
小さい子にもわかる歌詞を書くことは一番難しい」
北村との共通点であるネガティブさとはどういうものだろうか。
「僕個人としては、ポジティブはネガティブから生まれるものだと思っています。明るさがあれば暗さがあって、自由があれば不自由がある。すべての事象は表裏になっているという考えで、歌詞を作るときにもネガティブな部分をすごく大切にしています。
自分の繊細なところやいろいろなものへの憤りなどをどうやって表現として昇華するか模索しているところが、僕と匠海君は同じかなと感じています」
やなせたかしが作詞し、いずみたくが作曲した大ヒット曲「手のひらを太陽に」。ドラマでは嵩といせが生み出す。この曲についてはこんなふうに思っている。
「改めて聞いて、やなせさんの作詞の力が非常に強いと思いました。とてもシンプルなワードのみで、小さい子にもわかる歌詞を書くことは一番難しいと思うんです。そして、いずみさんが作られたメロディはいつの間にか人の心に浸透して、日常に寄り添いながら長く残っていく。これがすごい。
僕が、曲を作る上でも、何十年後まで残るかもしれないという意識を持ちますが、実際にそれを実現したいずみさんへの尊敬が止まらない。一人の人間の人生の証しとして、歌や物語になって後世に残ることはとてつもないことだなというふうに感じながらやらせていただいています」
二人三脚でヒット曲を作ることになる嵩について大森さんが感じたことはこうだ。
「幼少期のつらい体験をはじめとして、いろいろなことが嵩の自己を形成していて。自分に自信が持てないまま生きている。世間に認められることがなかなかないことはつらいでしょうね。
僕自身も世の中に評価されたくてプロを志したわけですが、他者から評価されなくても自分を持ち続けることがものづくりだと思うんです」
他者と自分との間で、大森さん自身は同世代に嫉妬したりすることはないと言う。
「嫉妬心までいかないです。皆さん本当に素晴らしいし、嫉妬よりも自分が情けなくなるタイプです。
でも、世の中の評価軸の民主的な部分というのかな、多くの人に評価されていることが素晴らしいことという考え方に関しては、僕は決してそうではないと思っていて。多くの人に音楽が届く身になってもその気持ちは変わらないです」
そんなふうに思う大森さんだからこそ、嵩のようになかなか前に進めない人に温かなまなざしを向ける。