「ポジティブはネガティブから生まれる」ミセス大森元貴の創作哲学がグサッと刺さる第92回より

「音楽は自分と対峙する作業が多い
演技はその逆」

「これまでの僕は音楽活動を通してどれだけ“大森元貴”であるかを問いかけられるような生き方をしてきました。楽曲を書くために自分と対峙する作業が多い仕事です。

 演技はその逆で、自分ではない他者になることが非常に興味深いし楽しい。例えば『あんぱん』はカフェでの撮影が多いのですが、日常ではカフェになかなか行けないので、セットとはいえカフェの空間に癒やされています」

 難しかったのは歌の場面。大森元貴としての歌と、いせたくやとしての歌の違いは意識した。

「歌うシーンではMrs. GREEN APPLEを削る作業を意識したかもしれません。たくやはプレイヤーではないので、歌に対してレスポンスが早いと嘘になるかなと考えました。

 歌を生業にしていない人は歌うときすこしのためらいがあると思うんです。そこでMrs. GREEN APPLEの歌はキーがとても高いけれど、ドラマではなるべくキーを抑えました」

 ただ、いずみさんは非常に出たがりだったという話も聞いた。そこで『いつも表に出ていないからこその欲求と遊びもあるだろうな』と思いながら歌いました」

 歌を知っているからこそ、他者の歌と自分の歌が違うことも理解できるのだろう。

 いせたくやは嵩といいコンビになる。嵩役の北村匠海さんとは同世代。大森さんもまた彼との芝居を楽しんでいる。

「匠海くんとは7、8年前にご一緒したことがあって。その後、なかなか会えていなかったので、今回は久々にお会いして嬉しかったです。

 第一線でやられている同世代の方なのですごく共感しますし、持っているネガティブな気持ちの出所みたいなものは非常に似ているなとちょっと思っていて、現場でお互い頑張っているよねと語り合いながら楽しく過ごしています」