つまり、どのようなテクノロジーやシステムを導入するのか、そこからどれだけの価値を引き出し、ビジネスの成果につなげていけるのかは、すべて「人」にかかっており、「人起点」こそがDX推進に不可欠なアプローチである、ということだ。
では、日本企業がDXを円滑に推進するにあたり、どういった問題が生じているのか、これから詳らかにしていきたい。
DXの成功に欠かせない
CIOの強力なリーダーシップ
ビジネスにおけるテクノロジーの重要性が増す現代において、CIOには、従来の役割に加え、ビジネスを深く理解し、テクノロジーを活用して市場変化に柔軟に対応し、競争力を高める戦略的な視点が強く求められている(図01-01)。
CIOの役割は、システムの運用やコスト管理といった従来の枠組みを超え、企業の成長と変革を牽引する中心的な存在へと進化している。クラウド、生成AIなどデジタル技術の進化・普及・DXの浸透・広まりを背景に、市場環境が急速に変化する今、CIOはテクノロジーを活用したビジネス戦略を立案し、企業の競争力強化を主導する役割を担う。
かつては、クラウドの導入に際してセキュリティの脆ぜい弱じゃく性やデータガバナンスの確保、法規制への対応といった点に強い懸念があった。しかし、そうした課題に対する技術的・運用的な対策が整備され、クラウドが不可欠なインフラとなった今、CIOは単なるIT管理者ではなく、ビジネス変革のリーダーである。ビジネスニーズを深く理解し、テクノロジーで実現することで競争力を高め、社内外のステークホルダーとの連携を通じて企業価値向上にも貢献する。これからのCIOには、テクノロジーを駆使したビジネス変革を主導する強力なリーダーシップが不可欠である。
こうした役割の変化は、CIOの周辺や組織の内部に限ったことではない。
企業を取り巻く外部環境、すなわち社会そのものや経済、カルチャーなど、そのすべてが過去とは比較にならないスピードで変化している。これは、10年ほど前まで「機密データを社外に置くのは危険」といわれていたクラウドが、今では当たり前のインフラとして定着していることからも明らかである。
そして、こうした劇的な変化に柔軟に適応しながら、新たなビジネスチャンス創出のために必要なのがDXだ。DXに取り組むにあたり、CIOはテクノロジーを通じて企業の成長戦略を支えるキーパーソンとなるべきなのである。
CIOは、IT戦略を構築しデジタル変革を推進するために、以下の5つの要素を組み合わせて推進する必要がある(図01-02)。
(1)自社ビジネスに対する真の理解
自社の強みを発揮できる既存事業、および未来の成長を支える新規事業を正しく理解する。
(2)組織とプロセスの変革
データ活用を前提とした組織とプロセスを再構築し、データ活用戦略を組織内の文化に浸透させる。
(3)デジタル人材の整備
デジタルに関する従業員のスキルとリテラシーを高め、かつ、デジタル人材が働きやすい環境を整備する。
(4)アジャイルな思考とプロセスの定着
アジャイルなマインドセット、つまり計画・設計・開発・テストといった開発工程を機敏かつフレキシブルに繰り返す思考を組織に浸透させ、「走りながら考える」へと転換する。
(5)テクノロジー活用の基盤整備
情報システム部門が中心となってガバナンスの効いたIT環境を整備し、クラウドなどの活用を加速する
「人起点のテクノロジー変革」は、これらのポイントを踏まえて実行していくが、その成否は、まさにCIOのリーダーシップにかかっていると言っても過言ではないだろう。