多くの企業がDXに取り組んでいるものの、十分な成果を上げているとはいえない状況にある。なぜ企業はデジタル変革で成功することができないのか。その本質的な原因を分析し、解決策を提示するのが新刊『Leading Transformation――チェンジリーダーが挑む「人起点」のデジタル変革』である。今回、同書の刊行を記念して序章を特別公開しよう。
DXの推進を阻む
日本企業の「経路依存性」
本書の解説を進めるにあたり、まず押さえておくべき本質的な論点がある。それは、「なぜDXに取り組む日本企業は、思うような成果を上げられないのか?」という問いである。
Ridgelinezは、これまで多くのプロジェクトに携わってきた。これらのプロジェクトの初期段階では、「これまで投資や人材配置には力を入れてきたものの、組織や業務プロセスが従来のままで、全社的な変革に至らず成果を実感できない」「予算も人材も投じてきたにもかかわらず、既存システムとの整合性やレガシー負債の整理が進まず、DXが停滞している」という、クライアント側の切実な悩みをしばしば耳にしている。
実際、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の調べによると、日本でも年々DXの効果は出てきているものの、依然として米国の水準には至っていない(図00-01)。
なぜ日本では、なかなかDXの成果が上がらないのか。その大きな理由の一つとして「経路依存性」が挙げられる。
経路依存性は、もともと経済学の分野で用いられてきた概念であり、過去の状況において下された判断や意思決定が、現在の選択や決定に大きく影響することで強固な制約がかかる現象を指す。つまり、人や組織が「過去に縛られている」状態、ということだ。