ステーブルコイン普及で
懸念される2つのリスク
ジーニアス法の目的は、政府が信頼性と透明性を担保することで、ステーブルコインを国際的な金融インフラへと押し上げることにある。しかし、トランプ支持者の多い共和党保守派の間でも賛否が分かれている。
その懸念の中心は、次の2つのリスクである。
・通貨発行権を民間に委ねることのリスク
・「中央銀行の政府からの独立」を侵害するリスク
その一方で、金融業界やテック企業からは歓迎の声も多く、特にステーブルコイン「USDC」を運営するサークル社や、「USDT」を発行するテザー社は、法案成立を受けて国際展開を加速させる計画だ。
USDCは、アメリカのサークル社とコインベースが共同で運営するステーブルコインであり、米ドルと1対1で価値が連動する。準備資産の透明性が高く、アメリカの規制当局との連携も進んでいることから、機関投資家を中心に信頼を集めている。一方、USDTは流通量で世界最大のステーブルコインだが、過去に準備資産の不透明性をめぐって批判を受けたことがある。
アメリカ政府は、民間発行のステーブルコインを「国家戦略の一部」として取り込み、アメリカ主導の新たな金融秩序を築こうとしている。これは単なる金融技術の導入策ではなく、通貨主権の再定義に関わる国家戦略だと見るべきである。
トランプ大統領の目的は、政府が財政政策と金融政策の両方を掌握することにある。
トランプ大統領はなぜそのようなことを考えたのか。
トランプ大統領は第一次政権でもFRBの保守的なスタンスに批判的だったが、本格的にFRBの役割の再構築を始めたきっかけは日本のアベノミクスではないだろうか。
アベノミクスでは、安倍政権と黒田日銀が協力関係を築いたことで、これまでの政権が成し遂げられなかった経済効果を上げたように、トランプ大統領も政府が主導する金融政策を志向している。
ステーブルコインは、その実現のための道具なのである。上記の2つのリスクは、ステーブルコインがドル基軸体制を支えることと表裏一体であり、必然的に背負わざるをえない。
トランプ大統領は、そのリスクを背負うだけの価値があるほどに、ステーブルコインの普及が有効な手段だと考えているということだろう。