揺らぐドル覇権と
BRICSの挑戦
ドルの基軸通貨としての地位を脅かす存在として、BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなど)がある。現在は一時的に停滞しているが、BRICSでユーロのような統合通貨を作る動きがあった。
そこで中心となるのが中国の人民元である。
中国はこれまで、人民元を国際通貨として浸透させようと、デジタル人民元の実験や人民元建てのエネルギー取引などを進めてきた。
だが、人民元が単体でドルの代替となる可能性は限りなく低い。中国政府は為替に厳しい統制を敷いており、資本の自由な流出入を認めていない。通貨が自由に交換できることは基軸通貨の必要条件であり、人民元が基軸通貨になることは困難である。
さらに、中国は慢性的な貿易黒字体質であり、資金が海外に流出しにくい構造となっている。ドルは貿易赤字によって世界中に流通し、それが基軸通貨としての存在感を維持させている。人民元はむしろ国際的な流通量が不足しており、「手元に残らない通貨」である。
このように、BRICSによる「ドル包囲網」は現時点では十分な脅威ではないが、アメリカ側にも課題がある。それは、ドルを流通させるためには、アメリカが赤字を出し続けなければならないという構造的ジレンマである。
トランプ大統領は貿易赤字の解消を掲げているが、それはドルの海外への流通が減ることを意味する。結果的に、黒字化はドルの影響力を低下させることになる。
この矛盾を乗り越えるための手段が、ステーブルコインである。
ステーブルコインであれば、アメリカ国内にドルを残しながら、国際的に流通させることができる。流通規模が大きくなるほどに国内にドルが必要になるが、今後、アメリカの貿易が黒字化すれば、黒字還元(ドル)と通貨発行(ステーブルコイン)を同時に実現できることになる。
つまり、アメリカ金融の影響力を下げることなく、貿易黒字化が可能になるのである。
ステーブルコインの普及は
日本が国際金融センター化するチャンス
このステーブルコインをめぐる動きによって、日本にも大きなチャンスが訪れている。
現在、日本ではステーブルコインに関する制度整備が進められており、2023年には改正資金決済法が施行された。これにより、銀行や信託会社などが法定通貨を裏付けとしたステーブルコインを発行できるようになり、法的な不確実性が大きく解消された。
三菱UFJ信託銀行が主導する「プログマコイン」は、円やドルと連動するステーブルコインとして、企業間決済やクロスボーダー取引への活用が期待されている。