日本の大卒就職研究は、一度高い学歴・学校歴を獲得できれば出身家庭の影響はご破算になるという想定をとることが多く、とりわけ親学歴と初職達成の関連はほとんど検証されてきませんでした(注7)。

 例外的な研究として、教育社会学者の本田由紀の研究があります。

 本田は、とくに難度の高い大学に通う第1世代は、内定先の企業規模や主観的満足感に関して、大卒の親を持つ学生に劣る傾向があることを明らかにしています(注8)。

 また、本田は東大卒のキャリア形成を検討しており、第1世代の東大卒(とりわけ男性)に収入が相対的に低い傾向があることを明らかにしています。以上からは、第1世代の学生の就活時の不利が現実に存在することが示唆されます。

 では、第1世代は何が不利なのでしょうか。

 まず、身の周りに大企業勤務や高度な専門職の大人がいない場合、幼い頃からそうした仕事に対する具体的なイメージが持ちづらいと考えられます。また、本田は、就職活動を上手くこなしたり就活の成功を見据えた学生生活を送ったりするためのノウハウを、親世代から引き継げない点にも言及しています。

 受験勉強は、到達点とやるべきことがある程度明確であったのに対して、「人物採用」を掲げる現状の日本の就活ではそれらがいずれも不明確です(注9)。そのため、自らも大卒就活を経験した親からノウハウを引き継げるかどうかが、学生の就活の成否や就活を見据えた学生生活への適応を左右してしまうと考えられるのです。

(注7)荒木真歩「大学新規学卒者の就職活動に関する研究の動向と展望――今後の研究の発展に向けて」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第59巻、2019年、273~283頁。
(注8)本田由紀「「大学第一世代」の仕事への移行――期待・結果・コスト」『東京大学教育学部比較教育社会学コース・Benesse 教育研究開発センター共同研究 社会科学分野の大学生に関する調査報告書』2012年、18~28頁。
(注9)齋藤拓也「就職活動――新卒採用・就職活動のもつシステム」本田由紀編『若者の労働と生活世界――彼らはどんな現実を生きているか』大月書店、2007年、185~217頁。