池上:当時、日本は農業保護や検疫の観点から農産物の輸入を制限したり、価格を調整するため高い関税をかけたりしていました。アメリカはここを突き、輸入自由化、市場の開放を要求したのです。日本では零細農家が多いですから、牛肉やオレンジといった農産物がアメリカから大量に入ってくることが、日本の農業に大打撃となりかねません。

 しかし、たび重なる貿易への圧力で、ついにコメも輸入が認められました。当時は、大変な話題になったのです。

増田:戦後長らく、自由貿易を進めるべきだ、日本は関税が高すぎると言ってきたアメリカが、自ら関税を高くして自由貿易に背を向けることになるとは思いもよりませんでした。

池上:日本はアメリカとともに旗振り役となって貿易自由化を促進するTPP(環太平洋経済連携協定)の枠組みを構築してきました。ところが第一次政権時にトランプが「アメリカはTPPから永久に脱退する」と宣言しましたから、自由貿易を重視しない姿勢は明らかでした。

日本は為替操作で
円安誘導しているのか?

増田:さらにトランプは、円安についてもたびたび問題視しています。「日本は通貨を操作して、有利な輸出環境を作っている」との主張が以前からあります。

池上:確かに、為替についても注目が必要です。そもそも日米の為替問題は長い歴史があります。戦後、日本はアメリカ主導のもとで固定相場制を導入し、1ドル=360円というレートが長らく維持されてきました。これはアメリカが世界の基軸通貨を担う「ブレトンウッズ体制」(注1)のもとで決められたもので、日本の輸出産業にとっては極めて有利な環境でした。

 ところが1971年にアメリカが金とドルの交換停止、いわゆる「ニクソン・ショック」(注2)を発表し、その後、固定相場制は崩壊。為替は変動相場制へと移行しました。

(注1)第二次世界大戦後に設けられた国際通貨制度。各国の通貨をドルに固定し、ドルは金と交換できる仕組みで、ドルが基軸通貨として機能した。
(注2)1971年、アメリカのニクソン大統領がドルと金の交換停止を発表した出来事。これによりブレトンウッズ体制が事実上崩壊した。