池上:そして1985年、アメリカが日独など主要国に対し、自国の貿易赤字是正のためにドル高を是正することを求めたのが「プラザ合意」(注3)です。この合意により、円は急激に上昇し、数年のうちに1ドル=240円から120円台まで一気に円高が進みました。これがいわゆる「超円高時代」の始まりです。
増田:あのときは、円高によって日本の輸出企業が大打撃を受けましたが、金融緩和政策が取られたことで、金利が大きく低下し、企業は融資が受けやすくなりました。資金に余裕ができた分、不動産や株式投資が活発になり、結果的にバブル経済の引き金にもなったとされていますね。
池上:そして現在、再び「円安」が進行しているわけですが、今度はアメリカ側から「為替操作ではないか」との批判が出ています。日本銀行が長らく超低金利政策を維持してきたことが、為替市場における円の売り圧力となり、輸出企業には追い風となった一方、輸入物価の上昇を招き、食料やエネルギー価格の高騰という形で国民生活を圧迫しています。
トランプ政権が為替市場に直接介入する可能性は低いものの、「円安は不公正だ」との主張を根拠に、追加的な関税や日本に対する圧力を強めてくることは十分にありえます。つまり、為替は単なる経済の問題ではなく、政治リスクそのものになってきているのです。
アメリカが手を引いた後の
アジアで日本はどう生きる?
増田:グローバル経済の分断が進む中で、日本は国際社会において国際協調の担い手としての役割が期待されていますね。
池上:TPPをはじめとする多国間の経済連携、あるいは国際機関での調整役、気候変動など地球規模の課題に対する中立的かつ積極的な貢献が、日本の存在感を高める鍵になるでしょう。
増田:アメリカが退いたポジションの空白を、日本がどう埋めていくかという視点ですね。
池上:そうです。特にASEAN(東南アジア)諸国や欧州との連携を深めることで、日本は「橋渡し役」としての地位を築けるはずです。かつてのような経済力一辺倒の国際的影響力ではなく、信頼や安定感による「ソフトパワー」がより重要になる時代です。
(注3)1985年、アメリカが貿易赤字是正のために、日本や西ドイツなどと協調してドル高を是正するとした合意。