やはり見どころは母屋だった。せっかくなので、堀氏に案内してもらった。

気づけばそこは文化財に
囲まれた空間だった

 まず目に飛び込んできたのは「皇居地」の扁額。幕末の剣客としても名高い山岡鉄舟の筆になるという。

 続いて気になったのは秋篠宮が堀家住宅を案内されている写真。隣にいるのは、元参謀の堀栄三そのひとだった。それ以外にもつぎつぎに文化財級のものが紹介されるが、どれも勿体ぶらず、さり気なく置かれている。めくるめく重厚な歴史の連続に圧倒された。

 ふだんはこの母屋に併設されたレストランで鴨、鹿、猪などのジビエ料理が食べられるとのことだったが、わたしが訪問したときはあいにくシェフが事故に遭った直後で閉鎖中だった。

 そのため、堀氏が近くのスーパーで寿司やおにぎりなどを買ってきてくれた。吉野神宮宮司や第1師団長、「マッカーサー参謀」の子孫を使いっ走りのようにしてしまい恐縮した。

 周囲に民家もなく、夜は静寂そのもの。ピアノも置かれていて、堀氏いわく、「朝まで弾いても大丈夫」。ただ南朝の天皇がこのあたりにいたことは事実なのだから、この静寂こそ体験する価値があろう。伴林光平のように尊皇の思いが深ければ、あるいは微かな音色に南朝の愁いが聞き取れるかもしれない。