「店長手当が月2万円出るようになったけど、時給アップはなし。B本部長が言うには、管理職の立場だからいくら働いても残業代とかはつかないんだって。ただのバイトだった頃は、残業をすれば残業代をもらえたから、前の方が給料は良かったよ」
「責任だけ押し付けて給料が下がるなんて、お前絶対ナメられてる。そんな店、残業代をちゃんと請求して、身体壊す前にさっさと辞めちまいな」
Cの言葉は、Aの心に刺さった。
「そうだな。身が持たなくなる前に辞めてしまおう。でもB本部長にどう切り出せば……」
「あっちがゴネてきたら、『労働基準監督署に相談してきます』って言えばいい。俺、この手を使って前勤めていたブラック企業を辞めたからね」
B本部長に「店を辞める」と訴えた
Cと話してから1週間後。Aは閉店後、巡回に訪れたB本部長に思い切って申し出た。
「すみませんが、お店を辞めさせてください」
理由を聞かれると
「“店長”って言われても、僕は会社にとって都合よく使われているだけではないですか?昔より忙しくなったのに、給料が下がるなんて、納得できません」
とぶちまけたので、B本部長と言い争いになった。
「そんなこと、今まで他の店長から言われたことないぞ。君は間違ってる」
「じゃあ明日、労働基準監督署に行って確かめます。バイトをお休みさせてください」
「人手不足なのに休むなんて!シフトはどうするつもりだ」
「明日のシフトリーダーに段取りを話してありますから、大丈夫です。そんなに心配ならB本部長がシフトに入ったらどうですか。会社を立ち上げたとき、本部長は店でクレープを焼き、アイスクリームを出していたんでしょう?」
「管理職は残業代を出さなくていい」は正しい?
翌日、Aは予告通り休んだが、店は難なく営業を終えた。シフトリーダーから業務報告を受けて「本当に休むとは。職務放棄だ!」と激怒したB本部長は、20時過ぎにD社労士事務所を訪れ、居合わせたD社労士に声をかけた。
「ねえ、ちょっと時間ある?話を聞いてよ」
B本部長はAの件について長々と愚痴った末、こう質問した。
「彼、管理職なのに残業代を請求してきたんだよ。拒否したら『労働基準監督署に行って相談してくる』なんて言いやがった。管理職って残業代は出さなくていいはずだよね?」