タークルが言うように、「ソーシャルメディアを最大限利用する人たちは、自分自身の感情を含めて、人間の感情をなかなか読み取れない」傾向にあるのです。

 私たちのスマホ利用は、「1日3回、数分使うだけ」みたいな牧歌的な次元を超えています。長くスマホを触り続けるのはもちろん、細切れに何度も繰り返しスマホを使い、いろいろなアプリやSNSなど無数の刺激やコミュニケーションにふれています。

 こうした習慣は、他者の感情や心理状態を推測する力を衰えさせる地道な訓練を重ね、自分自身と向き合うことを避けて、自分が感じているものを押し殺すための努力でもあるのです。

 ただ、難しいのは、スマホを捨てればいい、ソーシャルメディアを止めればいいという単純な話はできないということです。「デジタル・ミニマリスト」や「デジタル・デトックス」などといった言葉とともに、「SNSアカウントを消せ」「アカウントの使用を制限するんだ」という話をする人はいますが、この種の議論は単純すぎます。

 公共政策学者のクリス・ベイルが書いた『ソーシャルメディア・プリズム』(みすず書房)という本があります。これは、SNSについて考える上でこれほど面白い本はないというくらいの内容なので、ぜひ読んでほしいのですが、本記事の文脈では「アカウントを削除すべきか?」と題された第7章が興味深く思われます。

デメリットを知りながらも
SNSをやめられない現代人

 社会科学者たちが、毎日15分以上Facebookを見ている18歳以上のアメリカ人3000人ほどを集め、アカウントを1カ月利用停止状態にさせ、その間参加者がアカウントを再開していないことを研究者たちは注意深く確かめながら、心理状態の変化を調べたそうです。実験参加者たちはアカウント停止によって幸福度が増したと回答しており、その他の点でもポジティヴな効果が見られたようです。

 うーん、いい話ですね。でも、大事なのはここからです。