プロ野球球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」や決済サービス「PayPay」を立ち上げた事業家、小澤隆生氏。2025年2月に発売した書籍『小澤隆生 凡人の事業論』では、自らの経験を基に構築した事業立ち上げ論を豊富な体験を基に語っている。そんな小澤氏が今年5月、コンサルティング会社「ブーストコンサルティング」を創業した。人工知能(AI)をフル活用したシステム開発を中心に、新規事業の立ち上げやM&A(合併・買収)などを支援し、昨年設立したベンチャーキャピタル(VC)「ブーストキャピタル」の子会社にあたるという。ベンチャーキャピタルの傘下に事業会社を設立するケースはとても珍しいそうだ。今回は、「凡人の事業論・番外編」として、小澤氏にコンサルティング会社設立の狙いを聞いた。(前編=聞き手は蛯谷 敏)

「事業のヒリヒリ感をまた味わいたい」小澤隆生、VCの常識を覆す新会社設立に挑んだワケAIをフル活用したシステム開発を中心に、新規事業の立ち上げやM&Aを支援するコンサルティング会社を創業した小澤隆生氏

スタートアップ業界はまた活気づいている

――5月に新しく「ブーストコンサルティング」を立ち上げました。ベンチャーキャピタル(VC)が子会社として事業会社を立ち上げるケースは珍しいです。

小澤隆生氏(以下、小澤) もともと、VCを立ち上げるときに事業説明に書いてはいたんです。僕らの事業範囲として、「作る(事業立ち上げ)」「育てる(投資)」「買う(M&A)」という3つを事業ドメインでやっていきますと。ただし、一般にVCは「育てる」が中心なので、普通と違うと言えば違いますよね。でも別にVCが事業会社を作ってはいけないというルールはないんですよ。

 とはいえ、最初の一年は立ち上げたばかりというのもあって、事業環境を見ながら、まずは普通のVCとして、投資を続けることにフォーカスしました。

――1年経って事業環境が見えてきた結果、事業会社を立ち上げることにしたと。

小澤 そうですね。十数年ぶりに戻ってきたスタートアップの世界が、どう変わったのか、色々と分かってきたのは大きいですね。

 大前提として実感しているのは、日本におけるVCやスタートアップが以前とは比べものにならないほど、活気づいていることです。投資家、投資を受ける起業家の双方に、優秀な人が増えているし、社会的な注目度も高まっています。これは非常によいことですね。

ベンチャーキャピタルを取り巻く環境が大きく変化

小澤 半面、素晴らしいVCが増えた結果、競争も以前と比較にならないほど激しくなっています。その中で、我々は最も新参者なわけです。ビジネス機会をものにするためには、他のVCとの違いを打ち出す必要がある、という危機感がありました。

 さらに、制度面でVCを取り巻く環境が大きく変わりつつあります。今年4月に東京証券取引所が公表した上場維持基準の変更方針は、多くのスタートアップが目指すグロース市場のルール変更を促します。この方針には色々な見方があると思いますが、VCの立場としては、今後投資先の企業をエグジットする機会はより厳しくなっていくだろうと感じています。

――つまり、VCとしては今後はビジネスが難しくなってくると。

小澤 そうですね。一年間投資を続けてみて、この流れでいくと自分たちが描いているようなパフォーマンスを出すのは難しいだろうなという感覚はあります。

 だから、僕らも山の登り方を変えなくてはいけません。では、VCとしての成果を最大化させるためには、どうしたらいいか。その選択肢として今回始めたのが、もともと考えていた「作る(=VCによる起業)」というわけです。