転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。フードデリバリーのスタートアップ、スターフェスティバルCEO(最高経営責任者)を務める岸田祐介さんは、プロ野球球団、楽天ゴールデンイーグルス創業メンバーで、南氏とともに球団の立ち上げに奔走しました。三木谷浩史・楽天グループ代表、島田亨・USEN-NEXTホールディングス副社長、小澤隆生・ヤフーCOO(最高執行責任者)の薫陶を受けた岸田さんが、当時のエピソードを振り返ります。岸田さんは、日本を代表するトップリーダーたちの無茶降りによって「絶対無理」と思えるような課題も乗り越える方法を学んだと言います。

■楽天イーグルス創業で学んだこと01回目▶「5ヵ月で球場を探せ!? 楽天イーグルス創業で体現した「無理」を実現する力」
楽天イーグルス創業で学んだこと02回目▶「楽天イーグルス、「絶対無理」と言われた初年度黒字を実現できたワケ」

三木谷浩史、島田亨、小澤隆生の無茶振りが教えた「絶対無理」を乗り越える術ビズリーチ創業者の南壮一郎さんと一緒に、楽天イーグルス創業時に働いたスターフェスティバルCEOの岸田祐介さん

――当時、岸田さんや南さんの上司だった小澤隆生さん(現ヤフーCOO)は、「要素分解」という言葉を使って、プロ野球のビジネスモデルを徹底的に調べていたそうですね。

岸田祐介さん(以下、岸田) 尋常ではなかったですね(笑)。日本のプロ野球、Jリーグはもちろん、アメリカのメジャーリーグやマイナーリーグ、バスケットボール、アメリカンフットボール、テニス、ゴルフ……。スポーツ業界はどういう構造になっているのか、すべて調べ尽くしていたと思います。

 すると、大体、稼ぎ方にはある方程式があるのが分かりました。広告、グッズ、チケット、ファンクラブ、放映権の5本柱が、スポーツ興行の稼ぎ方だと分かってきたんです。すると、今度はそれをさらに因数分解していく。じゃあ、成功している球団では、ファンクラブをどういう方法で展開しているのか、と。

 ファンクラブだと別にプロ野球だけではなく、アーティストなどの興行でも存在しています。ファンクラブそのものがビジネスとして成立しているんだけど、調べてみると大体、年会費は3000円になっている。それをそのまま、まねても、おもしろくないので、例えば思いっきり高額にして、ものすごくレアなグッズやサービスを付加したらどうか、という感じに議論を展開していきました。

 こういうアイデアの多くは、普通に考えると通らないんです。でも、「無理だ」という先入観を一度取り外して、「何とかやってみよう」という覚悟で考えてみると、意外といろんなアイデアが出て、世の中になかったものが生まれていく。そして、全然違う結果につながるんです。

――球場でお客さん同士が向かい合って座るボックスシートも、そういう常識を疑う中から生まれたと聞きました。

岸田 これも、「我々のお客さんって誰なんだ」というテーマで小澤さんや南さんと議論していたんです。みんなの可処分時間はどこで消費されているのかと。

 それで出てきたのが、居酒屋でした。みんな、球場には行かずに、カラオケボックスや居酒屋で時間を過ごしている。そうした人たちに球場に足を運んでもらうにはどうしたらいいか。

 議論をした結果、「仮に野球に興味がなくても、球場が酒を飲んで盛り上がれる場になったら来てもらえるのではないか」という仮説を立てました。球場を、プロ野球を見せる場から、巨大な居酒屋と捉えて、横でついでにプロ野球の試合が観戦できるというコンセプトはどうか、と。そう考えたら、みんな同じ向きで横並びで飲むと味気ない。テーブルで向かい合って話したいよね、ということで、ボックスシートをつくろうという話になりました。

 そうしたら、とても反響が良くてすぐに座席が完売したので、どんどんボックスシートが増えていきました。

――本当の課題をまずは抽出して、先入観を一度置いて、いろいろな取り組みをしたわけですね。

岸田 50年ぶりの新球団をつくるなんていう仕事は、誰もやったことがありません。だから最初は「どうすればいいの?」と思っていたんですが、やってみたら、結局、人を喜ばせるための本質的な欲求を見極めることだったんです。それを普通じゃない方法で満たしたのが、僕らのやってきたことでした。

――当時の経験から得た一番の収穫は何ですか?

岸田 今、経営している会社の理念の中に「やってやれんことはない」という言葉があるんです。つまり、できないことはないということはない。これはまさに、楽天イーグルス時代に自分自身が体験したことです。

 今振り返れば、もうめちゃくちゃです(笑)。小澤さん、島田さん、三木谷さんというスゴ腕の経営者から、次々と指示が飛んできて、僕や南さんが「まじっすか」と現場を走り回る。当時はただ、がむしゃらにやっていました。

 しかも「絶対無理」と思えるような難題だって、試行錯誤をしていると、乗り越えられた経験が積み重なっていく。それを、もう幾度となく繰り返していくと、ある時点で、「自分にできないことなんて本当にない」と信じられるようになっていくんです。僕にとっては、これが今の経営の原動力になっています。

 今だって、何か大きな事業に挑戦しようというと、「無理じゃないか」という声は出てきます。けれど、楽天イーグルスの立ち上げを経験している僕からすると、「そう? そんな難しいことかね?」と感じてしまう(笑)。

「難題」のハードルがとにかく下がりました。そんな環境で働けたことが最大の財産だと、僕は思います。