8月も下旬に入ったものの、天然サウナのような猛暑が続いている。日本の夏の暑さは年々厳しさを増しているが、同時に、命に関わる危険が増しているのが「熱中症」だ。大人よりも熱中症のリスクが高いのは、体温調節機能が未熟な子どもたち。正しい対策を怠ってしまうと、楽しいはずの夏休みが、一転して悪夢に変わる可能性もある。
そこで本記事では、池上彰総監修『いのちをまもる図鑑』(ダイヤモンド社)で第3章「ケガ・事故からいのちを守る」の監修を務めた救急科専門医の西竜一氏に、「熱中症のメカニズムと予防法」を聞いた。夏のレジャーシーズンを後悔なく過ごすために、意外と知られていない熱中症対策の正しい知識を身につけよう。(取材・構成/樺山美夏)

【生死を分ける】熱中症の「重症度別」応急手当と救急車を呼ぶ判断Photo: Adobe Stock

熱中症の対応は「スピード」が重要

――『いのちをまもる図鑑』にも対処法が解説されていますが、夏のレジャーは熱中症との戦いです。「子どもが熱中症かもしれない」と思ったとき、重症度を見極めて、適切な対応をとるためのポイントを教えてください。

西竜一氏(以下、西):熱中症の対応は、時間との勝負です。重症度には軽症・中等症・重症の3段階あるので、それぞれの症状を理解して、迅速に行動することがお子さんのいのちを守ることにつながります。

まず軽症の第一段階では、まだ意識ははっきりしています。主な症状は、めまい、立ちくらみ、顔のほてり、失神、筋肉のけいれん(こむら返り)など。この段階での対応は、現場での応急手当が中心です。

具体的には、直射日光を避け、風通しの良い日陰や、クーラーが効いた室内や車の中など、涼しい場所へすぐに移動させます。

軽症の熱中症になったらやるべきこと

――体を冷やすのはそれからですね。

西:はい。まず涼しい場所に移動して、ベルトを外す、シャツのボタンを外す、靴下を脱がせるなどして、体から熱を逃げやすくします。

それから、皮膚に水をかけたり、濡らしたタオルで体を拭いたりしてから、うちわや扇風機で風を送ると、気化熱で効率よく体温を下げることができます。首の付け根、脇の下、足の付け根など、太い血管が通っている場所を冷やすとより効果的です。

同時に、水分・塩分の補給もしてください。本人が自力で飲めるようであれば、スポーツドリンクや経口補水液、あるいは食塩水(水1リットルに塩1~2g)などを十分に与えます。この応急処置で症状が改善すれば、そのまま安静にして様子を見ても大丈夫です。

中等症の場合は病院へ

――わかりました。中等症はどういう症状でしょうか。

西:軽症の状態が改善しない、あるいは頭痛がひどい、嘔吐や吐き気がある、倦怠感や虚脱感があり、集中力や判断力の低下などが見られたら、中等症です。特に、吐き気があって水分を自力で補給できない場合は、点滴による水分・電解質の補給が必要になるため、迷わず医療機関を受診したほうがいいです。

――その中等症の段階で、救急車を呼ぶべきか迷いそうです。判断のポイントはありますか?

西:非常に難しい判断ですね。明らかにぐったりして動けない、呼びかけへの反応がどんどん悪くなる、といった場合はためらわずに119番通報してください。
しかし、そこまでではないけれど心配、という場合は、子ども医療電話相談(#8000)や、自治体の救急相談センターに電話することをお勧めします。専門家が状況を聞き、受診の必要性や救急車を呼ぶべきかどうかを判断してくれますから。

重症なら、直ちに救急車を呼ぶ

――#8000が子ども医療電話相談だと知りませんでした。親として勉強不足ですね。重症はどんな症状でしょうか。

西:重症は、命に危険が及んでいる極めて緊急性の高い状態です。症状としては、呼びかけに反応しない、おかしな言動や行動が見られるといった意識障害があります。他にも、全身がガクガクと震えるけいれん、体に力が入らず、支えなしでは座れない、歩けないような運動障害などが特徴です。

これらの症状が一つでも見られたら、それは重症のサインです。「様子を見よう」などとは絶対に考えず、直ちに119番通報してください。この段階では、脳や腎臓、肝臓などの重要な臓器に障害が起き始めている可能性が高く、一刻も早い専門的な治療が必要です。

――想像しただけで怖くなります。親がパニックにならず、冷静に対処しないといけないですね。

西:おっしゃる通りです。救急車が到着するまでの間も、体を冷やすなどの応急処置はずっと続けてください。毎年、熱中症で亡くなる方がいますが、その多くは熱中症の症状に気づかず、発見が遅れたり、対応が不適切だったりしたケースです。悲劇を防ぐためには、正しい知識を持って、正しく対応することがもっとも重要です。

※本稿は、『いのちをまもる図鑑』に関連した書き下ろし記事です。

西竜一(にし・りゅういち)
医師。公衆衛生学修士。救急科専門医。南町田病院救急科勤務。帝京大学医学部救急医学講座非常勤講師
帝京大学医学部卒業。救急医として日々あらゆる病気やケガの診察をし、災害時には被災地において医療活動を行う。救急・災害医療の知識を市民へわかりやすく伝える活動も行っている。