(3)企業ブランディング・採用力の毀損
 求人媒体や口コミサイトでは「賞与年○回」という表記が応募者の目を引きます。給与化でその文言が消えると、実質年収が同じでも「賞与なし」とみなされ、検索フィルターから外れるリスクがあります。

 また、「賞与を削ってコストカットを図った」という印象がSNSや転職口コミサイトで拡散されやすく、採用活動に目に見えない障壁が生まれる可能性も否定できません。

報酬改革を成功させるには?
社員の納得を引き出す4つのポイント

 ボーナスの給与化による影響を最小限に抑え、社員の納得を得ながら制度を導入するためには、主に次の四つが重要なポイントです。

(1)制度変更の目的を共有する
 社員へ説明をする際には、物価高対応、人材確保、報酬の安定化といった背景を冒頭で示し、「なぜ今この改定なのか」を伝えましょう。また、賞与は業績次第で変動しやすい一方、月給は一度上がるとなかなか下がりません。この「変動リスク低減」「家計の見通しが立てやすい」など、社員側の利点も併せて示すと良いでしょう。

(2)影響を「見える化」した事前説明
 モデルケースを用いて保険料や手取りの変化を早期に共有するべきです。特に給与水準の中間層が「自分だけ損をした」と感じやすいため、段階的な移行措置や給与体系の選択制など、クッション策を合わせて示すことが大切でしょう。

(3)インセンティブの再設計
 賞与など成果連動型の報酬を廃止すると、そのままでは成果を評価しにくくなります。そこで代替策として、「スポットボーナス」や「利益分配手当」など短期・変動型インセンティブを新たに設計し、欠けた評価機能を補完する方法が有効です。個々の成果がタイムリーに報酬へ反映されるという実感が持てれば、公平感が生まれ、社員のモチベーションを保つことができます。

(4)社外・採用向けコミュニケーション
 報酬体系の変更は採用ブランドに直結します。求人票には「賞与相当額を月給に含む」「提示月給は賞与込み年収ベース」などと明記し誤解を防ぐ方法が考えられます。あわせて社内FAQや説明動画、面接用Q&Aを整備し、誰でも説明しやすい環境を用意すると制度がスムーズに定着するでしょう。

 ボーナスを月給に組み込む決断は、単なる支払方法の変更ではなく、経営と人事の両面を組み替える大きなチャレンジです。制度導入の背景や公平性を丁寧に共有し、成果連動の楽しみを別の形で補完できれば、手取り逆転や士気低下といった副作用は徐々に和らぐでしょう。

 固定給による安心感と評価のメリハリを適切に配分する設計こそが、物価高や事業環境の変動にも揺らぎにくい組織をつくる重要な鍵となるはずです。