不思議な婆ちゃんの手のひら
痛みで意識が朦朧とするとき、俺は決まって婆ちゃんの手のひらを思い出していた。婆ちゃんは俺が子どものとき、腹が痛いなどというと「悪しきをはーろて、たーすたーまえ、てんりゅう王のみぃこーとぉー」と、祈祷とも呪文とも思われる声を出しながら手のひらで俺を撫でてくれた。それを思い出すと不思議と痛くなくなるのだ。
翻って現代のお医者様は患者に触れることがほとんどないと思う。医師は病気の原因分析と治療方針を決める。実際に患者に触れて治療するのは、理学療法士や看護師である。専門性と分業制が進んでいるのだろうが、患者からすると何か物足りない。
もちろん、患者に触れればいいというわけではないだろう。レントゲンをはじめCTやMRI といった優れた機械の映像から、何かを読み取るほうが大切なのは分かる。しかし、患者が痛みを訴えているとき、そこに手を置き、どのように痛いかを聞いてくれるだけでも、痛みが一瞬、和らぐような気がする。科学的に証明されてなくても、触診は医師と患者の間に信頼を生むと思えてならない。
俺の経験から言うと、診療科によってもずいぶんと対応は違う。まず、「脳」や「内科」と付く診療科のほうが患者の話を聞くし、説明も丁寧な気がする。
というのも俺の主治医はこの3月、DBS手術を執刀した脳神系外科のI先生に交代した。I先生が、その典型だ。診察時間は30分も取ってくれる。痛い患部には手を触れて、チクチクなのかピリピリなのか、あるいはしびれだけなのか、痛みの種類を聞いてから対処法を患者に説明してくれる。その説明が実に論理的かつ分かりやすいので、家内は大ファンになってしまった。
ある理学療法士さんが、「整形外科の先生は、体育会系です」と評していた。患者が多すぎて、ゆっくり考える暇がなく、目の前の課題(=手術)をこなしている――言い得て妙であると思った。
次回は、なおも続く痛みとの付き合い方について述べたい。乞うご期待!
