生活圏が重なり始めたクマ
遭遇しないための備えが大事

 いまだヒグマによる人身被害の話を聞いたことのない西興部村だが、出没情報は2025年度に入ってからすでに27件も寄せられている。7月18日の朝7時40分には、村内のコンビニからわずか400メートルほどの場所にあるバス停近くで、国道を横切る1頭が目撃された。

 山から人里へおりるヒグマは確実に増えている。そうした状況は全国各地でも同じで、クマの出没を伝えるニュースが連日報じられている。

 人間とクマの生活圏が重なり合い始めたことで、より大切になってきたのがクマとの遭遇を避ける事前の備えである。

 猟師といえども、猟銃を無闇に持ち歩くことはできない。所持許可証に記された「狩猟」「有害鳥獣捕獲」「標的射撃」のいずれかの明確な用途のためか、修理や保管の委託で銃砲店を訪ねる時などでないと、携帯・運搬の正当な理由には当てはまらないからだ。

渓流釣りで山に入る時は
「熊笛」と「蚊取り線香」を持参

「私がキノコ狩りや渓流釣りで山に入っていく時は、ホイッスルの『熊笛』を持っていきます。熊は人間に対する警戒心が強く、時折吹くことで人間がいることを知らせ、近づいてこないようにできるのです。長年にわたる猟師の経験から、ヒグマの普段の通り道がわかっています。そこを避けるのはもちろんのこと、熊笛を使うことによって、より万全を期すようにしています」

 熊笛はネット通販で1000円以下の価格で手軽に購入できる。また、「熊鈴」も有効で、身に着けた人間が動くたびに鈴が鳴り、クマの接近を予防してくれる。大きな音が鳴る真鍮(しんちゅう)製だとか、街中など不要な時の消音機能付きだとか、いろいろなタイプがあり、価格は1000円未満のものから2000円台のものまでさまざま。

 さらに、中原さんが意外な熊除(よ)けアイテムを紹介してくれた。それは一昔前まで夏の風物詩であった「蚊取り線香」だ。

「渓流釣りをする時は、携帯ホルダーに入れた蚊取り線香を焚き、背中側に吊したり、腰からぶら下げたりしておきます。すると線香の成分である除虫菊の独特な香りが周囲に広がっていきます。ヒグマの嗅覚(きゅうかく)は犬の6倍ともいわれ、数百メートル離れた食べ物の匂いを嗅ぎつけます。普段嗅ぎ慣れない匂いを警戒して、こちらに近づくのを防げ、渓流釣りに集中できるようになるのです」