クマ撃退スプレーの訓練では
噴射距離が意外と短かった

 それと数年前から狩猟以外で山に入る際に必ず身に付けるようになったのが「クマ撃退スプレー」で、中原さんは現在3本持っている。クマの接近予防ではなく、クマが至近距離に近づいた際に、身を守る最後の手段として携帯するようになった。

 スプレーから唐辛子の辛みである「カプサイシン」の成分が勢いよく噴霧され、それを顔面に浴びせることでクマを撃退するアイテムだ。主流をなす海外製は2万円程度のものが多く、最近発売された国産のものだと1万円をかろうじて切る。

「幸いなことに、実際にヒグマに対して使ったことはありません。7月24日に管轄する北見方面興部警察署に地元の猟友会に属する猟師や警察官が50人ほど集まり、スプレーを使う訓練を行いました。メーカーによって違うのでしょうが、その時のスプレーの噴射距離は7メートルしかなく、意外と短いことに驚きました」

「また、厳重な誤動作防止が施され、イザという時に慌てて解除できない恐れもあります。有効期限を過ぎたスプレーを使うなどして、事前に練習しておくことが必要でしょう。また、風向きによっては十分な効果が得られないこともあり、過信は禁物です」

ブナの実が大凶作
秋に被害が増加する可能性

 クマによる人身被害の発生状況の統計データを見ると、2019、20、23年度は9月から11月にかけて増加傾向にある。折しも東北地方の全5県で、エサとなるブナの実の大凶作が予想され、空腹に耐えかねて人里に下りてくるツキノワグマの今後さらなる増加が懸念される。

 一方、北海道でヒグマのエサとなるドングリについて、中原さんは「いつものように春に花を咲かせ、順調に育つかと思っていました。しかし、その後の天候不順で、実が豊富になってくれるのか心配しています」と吐露する。

 自分の身は自分で守るのが基本原則である。秋の行楽シーズンに山に入る人だったり、クマの出没情報が相次ぐ地域に住んでいる人だったりは、これまでベテラン猟師の中原さんが教えてくれた、クマと遭遇しないようにする事前の予防策、そして万が一クマと遭遇してしまった際の対応策を、頭のなかに叩き込んで実践していってほしい。

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【第1回】「クマが人を襲う時の「意外な初動」、遭遇したら「絶対にしてはいけないこと」【猟師歴50年のベテランが教える】​」はこちら

第1回は、猟師歴50年のベテランに、クマと遭遇した時に「真っ先にすべきこと」「絶対にしてはいけないこと」、クマが人を襲う時の「意外な初動」について教えてもらいました。