「何かのイベントですか?」
「これは、みんなでスクランブル交差点を歩こうという企画でして」
「オフ会*的な?」
「まぁ、そんなとこです」

 そんなやりとりをしていると、黒集団の中の数名がニヤニヤしながら、その様子をケータイカメラで撮影している。撮影されていることよりも、そのニヤけた表情にイラッとするが、ぐっと我慢だ。

 最近では一般の人にもよく知られるようになったが、職務中の公務員は肖像権が制限され、撮影すること自体に違法性はない。任意で撮影を止めるように言うことしかできないし、このときも撮影された際の対応マニュアル*などは存在しなかった。

「周りの迷惑にならないようにお願いしますね」

 あくまでも丁寧にそう伝えると、代表者はペコリと頭を下げた。

 周囲からは奇異の目で見られながらも、黒集団はいっせいにスクランブル交差点を渡り、そのまま渋谷の街へと消えていった。

 あっという間に昼をすぎたところで、遅めの昼食タイムになる。どの交番でもそうだが、昼食は出前や弁当配達を頼むことが多い。残念ながら今のところ交番勤務員は私物のスマホは持ち込み禁止だ。ケータイでウーバーイーツ、というわけにはいかない。

 配達弁当が届き、先輩方とともに束の間の休息。初めて交番の先輩たちとゆっくり話せた。50代のハコ長、40代の主任2人と、20代の班長*と私の5人で弁当をかきこむ。年齢も階級もバラバラの先輩たちからは「出身はどこ?」「彼女いるの?」「警察学校では何係?」と次々に質問が飛び交う。

 私が拳銃係であることを話すと、班長が「拳銃教官は木津さんだろ? よろしく言っといてよ」。警察は狭い社会*なのだ。

 1時間の昼食休憩が終わるとすぐに午後の地理案内が始まり、大きなトラブルもなく、午後4時、夜勤の交替員がやってきて引き継ぎ。渋谷署に戻り、拳銃を納めて、午後5時に初日の業務が終了。まさにあっという間の1日だった。

書影安沼保夫『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)安沼保夫『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)