【これはひどい】「花火が見えるマンション」購入者が味わった“苦い後悔”とは?
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本連載の著者は棚田健大郎氏。1年間必死に勉強したにもかかわらず、宅建試験に落ちたことをきっかけに、「自分のように勉強が苦手な人向けの方法を編み出そう」と一念発起。苦労の末に「勉強することを小分けにし、計画的に復習する」しくみ、大量記憶表を発明します。棚田氏の勉強メソッドをまとめた書籍、『大量に覚えて絶対忘れない「紙1枚」勉強法』の刊行を記念して、寄稿記事を公開します。

「花火が見えるマンション」購入者が味わった“苦い後悔”とは?
本日は、不動産トラブルについてお話しします。
「このマンション、花火大会が見えるんですよ」と言われたら、やっぱり心が動きますよね。特にあの隅田川の大花火大会。都会のど真ん中にいながら、ベランダから大輪の花火が打ち上がるのを見られるなんて、もうそれだけで物件の価値がグンと上がる気がしてしまいます。実際に、それを楽しみに購入した方がいらっしゃったんですが、これが思いがけず裁判沙汰にまで発展してしまったんです。
ことの発端は平成15年の5月。ある買主が、業者Yが分譲するマンションの6階部分を、約3278万円で購入しました。接待などにも使えると考えて、自身の会社の取引先を花火大会に招待できたら、と夢を膨らませていたんですね。そのために、部屋の壁を取り払い、リビングと洋室をひと続きにしてリフォーム。広々とした空間で花火を楽しめるようにと、引き渡し後すぐに手を入れました。
「花火が見えなくなった!」
ところが、翌年――つまり平成16年の5月に異変が起きます。なんと、自分が買ったマンションの東側、ちょうど隅田川を望む方向に、同じ不動産会社Yが、ほぼ同じ高さのマンションの建設に着手してしまったんです。
その結果、平成17年の2月頃には、もう部屋から隅田川の花火が見えなくなってしまった。これはもう腹が立ちますよね。花火が見えるという話だったのに、自分の目の前に花火を遮るマンションを建てられてしまったわけです。しかも、それをやったのがよりによって、同じ業者。買主としては、当然怒り心頭。そこで業者Yに対して、不法行為に基づく損害賠償として293万円の支払いを求めて訴訟を起こしたんです。
確かに、不動産業界ではよくあるトラブルの一つかもしれません。「眺望が変わった」「思っていた環境じゃなかった」――こうした理由でトラブルに発展するケースは後を絶ちません。
ただ、今回のケースは少し特殊です。というのも、買主が花火を接待に使いたいという意図を業者に伝えていて、それを理解した上で販売された物件だったという点。しかも、その業者自身が目の前に別のマンションを建ててしまった。これはさすがに筋が通らないと、買主側は考えたわけです。
裁判所はどう判断した?
では、裁判所はどう判断したのか。結論から言うと、買主の請求は一部認められました。慰謝料として60万円、そして弁護士費用として6万円、合計66万円の支払いを命じる判決が出たのです。
ここで重要なのは、裁判所が「花火が見えることに価値がある」と判断したわけではなく、「業者がその価値を認識していたにもかかわらず、それを損なう行為をした」という点を重視したことです。
具体的には、まず買主が購入時に「花火大会の観覧を目的としている」ことを業者に伝えていたこと。そして業者もそれを理解していたという事実。そうであれば、信義則上、その眺望を妨げないように配慮する義務がある――これが裁判所の見解です。
さらに、実際にマンションを建てて眺望を妨げたのが業者Y自身だったことも決定打となりました。もし他の第三者がマンションを建てたのなら、この判決はまた違った展開になっていたかもしれません。
とはいえ、裁判所も全面的に買主の言い分を認めたわけではありません。部屋から花火が見えるというのは確かに魅力ですが、それが常に法的に保護される利益とは限りません。周囲の空き地には、いつ誰がどんな建物を建てるか分からない。将来的に環境が変化することは当然の前提として考えなければならない――そんな現実的な視点も、判決には盛り込まれています。
不動産を買う前に知っておくこと
不動産業者としては、この事件から学ぶべきことがいくつもあります。
まず、購入動機として「花火が見えるから」といった話が出てきた場合、それを軽く受け流すのではなく、きちんと記録に残し、リスク説明を行うこと。その場の雰囲気に流されて、「そうですね~、絶景ですよ!」と調子を合わせてしまうと、後になってトラブルに発展する可能性があります。
重要事項説明書の中に「周辺環境が将来的に変化する可能性がある」という旨を明記するのはもちろんですが、それだけでなく、「花火が見えるということを前提に購入を検討しているお客様には、将来的な眺望保証は一切できない」という点を明確に伝える必要があります。
不動産取引というのは、物件そのものだけでなく、その周囲の環境や、そこから得られる体験までをも含めた“期待”を売っている部分がある。だからこそ、その期待に対する誠実な対応が求められるのです。
今回のように、たとえ法的には大きな責任を問われなかったとしても、業者としての信頼を失えば、それは将来的な営業に大きなマイナスとなって返ってきます。だからこそ、契約前のひと言ひと言に、ぜひ慎重になっていただきたい。
今回は「花火が見える」という話が裁判にまで発展しましたが、同じようなケースは他にも起こり得ます。だからこそ、常にお客様の“言葉にならない期待”に耳を澄ませ、それに誠実に向き合うことが、これからの不動産業においてはますます重要になってくるはずです。
(本原稿は、『大量に覚えて絶対忘れない「紙1枚」勉強法』の著者の寄稿記事です)