「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

「トップの思いつきで振り回される組織」と「現場と共創する組織」の決定的な差Photo: Adobe Stock

トップの“思いつき”で動く組織は、なぜうまくいかないのか?

 あなたの会社では、トップの一声に現場が振り回されてはいないでしょうか?

「全社で生成AIを導入するぞ」
「来年からはグローバル展開だ」
「新規事業を立ち上げるぞ」

 旗振りそのものは重要です。トップが未来の方向性を示すことで、組織全体の視野が開けることもあります。

 しかし、トップの“思いつき”が、そのまま戦略の起点になってしまうと、取り組みはなかなか前に進みません。

 なぜなら、本来戦略の出発点となるべき課題設定が曖昧なままだからです。

 課題が不明瞭な状態では、現場は何から着手すべきか判断できず、部門ごとに異なる解釈で動き始め、連携が崩れていきます。

 結果として、「結局、何を実現したかったのか」が霧散してしまうのです。

戦略は“目的の抽象化”から始まり、共創しながら幅を広げる

 成長する組織は、戦略の起点をトップの思いつきには置きません。

 まず行うべきは、「何のために取り組むのか」という目的の抽象化です。

 たとえば、「生成AI導入」はあくまで手段です。
 目的を抽象化して捉え直すと、

・社員が価値創出に集中できる環境をつくる
・判断の質とスピードを高める
・顧客体験を向上させる

 といった、本来めざすべき状態が浮かび上がります。

 目的が立ち上がることで、「どの方向性なら価値が生まれるのか」「どのアプローチが現実的か」といった戦略の幅出しが初めて可能になります。

 そしてこのプロセスを支えるのが、マネジメントと現場の共創です。

 現場は、“現在地の構造”を知っています。

 抽象化された目的を起点に現場の視点を重ねることで、戦略の意図は現実の文脈と整合し、実行可能な形へと具体化されていきます。

目的を共有すれば、トップも現場も同じ方向を見る

 戦略の幅出しを経たあとは、抽象化された目的をもとに、どの方向性が組織としてふさわしいのかを絞り込む段階に入ります。

 目的が明確に共有されていれば、現場は手段に振り回されず、「この取り組みは私たちの目的とどうつながるのか?」という視点で自律的に判断できるようになります。

 トップは方向性を示し、現場は抽象化と幅出しを通じて目的を共有する

 このプロセスが整うことで、トップのビジョンと現場の現実が“同じ地図の上”に揃い、戦略が動き始める組織へと変わっていきます。

『戦略のデザイン』ではこうした、目的を抽象化して戦略の起点を整える方法や戦略の幅出しについて詳しく解説しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。