公的年金の強制加入が必要な「本当の理由」…行動経済学者の答えに納得感しかなかった!写真はイメージです Photo:PIXTA

年金保険料の支払いは、現役世代の誰にとっても大きな負担だ。そのうえ「年金制度はいずれ破綻する」などと叫ぶ声が周囲からしきりに聞こえてきたら、もうたまらない。そもそも公的年金保険が誰もが加入したがるようなステキな制度ならば、強制加入にする必要などないのではないか。そんな疑問に、行動経済学者が答えてくれた。※本稿は、大竹文雄『経済学者のアタマの中』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

不完全な情報だけで
モノを買わされる私たち

 私が大学の学部生だったのは1979~83年ですが、その少し前の1970年代から、経済学に新しい分野が登場してきていました。情報の非対称性を扱う情報の経済学です。

 人間が行動するときの意思決定に関わる要素は、従来の経済学では「ヒト」「モノ」「カネ」だと考えられてきましたが、情報の経済学ではこれらに限らず、「情報」が大きな影響を及ぼすと考えます。その中で重要な論点は「情報の非対称性」というものです。

 これはつまり、取引などに際して意思決定をするときに、双方が持っている情報の量や質に格差がある状況を想定する、ということです。

 なお、経済学で「意思決定」という場合は、複数の選択肢から、それらを選ぶ主体の効用を最大化する、すなわち、最も高い満足度を得られる選択肢を選ぶことをいいます。

 情報が不完全なもとでの経済を考えることで、経済学はより現実的になりました。

 私たちがモノを買うか買わないか、誰と取引をするか、ということで悩むのは、商品の質がよくわからなかったり、取引相手が信用できるかどうかわからなかったりするからです。

 誰と付き合うのがいいのか、と悩むのも、相手の性格がよくわからない、相手が自分のことを好きかどうかがわからない、というのが大きな理由です。