そうではなく、人間はある程度は合理的で、そこからのずれ方も系統立っているために、それを前提に合理性だけで考えた戦略を修正し、実情に即したものとすることができるのです。
子どものやる気は
仕組み次第で引き出せる
行動経済学的な知見は、ナッジ(編集部注/人間の非合理な特性を利用して、よりよい行動を促す仕掛け)を自分に適用して努力を続けたり、周りの人の行動をよくしたりすることにも活かせますし、よりよくするためにどのような規則を作り、どのように人に伝えていくのかというところでも活用できます。
子育てに役立てられるというのも重要な点でしょう。私が行動経済学を研究し始めたのは子育てが終わった後だったので、自分の子育てを振り返ってとても後悔したものです。
当時、行動経済学を知っていたら、子どものやる気を引き出したり、勉強を楽しく継続させたりすることなどを、もっとうまくできただろうと思っています。
たとえば、テレビを見るのに「テレビから離れて見て」と言うよりも、床に足跡マークをつけて、「足跡に足を合わせてテレビを見て」と言う、保育園に行くのが嫌だと言う場合は「赤い靴か、黄色い靴かどちらで行くか?」「自転車か、歩くかどちらがいいか?」と言うのもナッジです。
お笑いのビデオを見て幸福度が高まるだけで計算問題の点数が上がったり、幸福度が高いと生産性が高まるという研究がありますから、朝は子どもの幸福度を高めてあげることが特に大事です(Oswald, et al. 2015, Bellet et al. 2024)。
自分で決めた約束は守る傾向がある、というのもうまく活用できます。大人も今を特に重視しますが、子どもはもっとその傾向が強いので、先延ばしするのが当たり前だと理解しておくことが大事です。
親が忙しくて心に余裕がない時には、子どもに対して一貫性のない指示を出して、子育ての質が下がってしまうという研究もあります。
うまくいかないことがあれば、どのようなバイアスがボトルネックになっているかを考えると子育ても少し変わってくるのではないでしょうか。