ところが医療系の専門家の方々の意見は逆でした。今発表したら、皆、感染対策を緩めるというのです。これに対して経済学者は、多数の人々はそれほど極端なことはせず、きちんと先のことを考えて行動すると考えています。

因果関係を突き止めるという
経済学者のもう1つの顔

・真の原因はどこにある?――因果関係

 経済学者は因果関係にこだわります。因果関係というのは、2つ以上の要素の間に原因と結果の関係があることをいいます。各要素が関係し合っている相関関係の例は世の中に数多くあり、たとえば、チョコレートの消費量が多い国はノーベル賞の受賞者が多いことが、データで明確に示されています(Messerli, 2012)。

 ただ、そこで両者に相関があるからと、「ノーベル賞受賞者を増やすためにチョコレートに補助金を出す」という政策が作られても意味はありませんね。皆がこぞってチョコレートを食べたらノーベル賞を取れるようになるわけではなく、チョコレートを多量に消費できるほど豊かな国の方が学問も発展しており、ノーベル賞の受賞者も多いというだけの話なのですから。

 このように、本当の原因は何かを考えなければ、政策は意味のないものになってしまいます。そのようなことにならないよう、経済学では真の因果関係を見出していきます。

 因果関係には、常識的に考えて当然そうだと思えることもありますが、厳密に検証しなければわからないことも実際にはたくさんあります。

「朝ご飯を食べること」と
「成績の良さ」に因果関係はあるか

 身近な例を挙げると、「朝ごはんを食べている子どもは成績がよい」というデータがあります。

 そう聞くと、確かにそれはありそうだな、と感じるのではないでしょうか。しかし、「朝ごはんを食べている」ことと「その子の成績がよい」ことの間に因果関係があるかをきちんと分析するのは簡単ではありません。