遊びに行けば、そのとき働いていれば得られたはずのお金を放棄していることになりますが、それが遊びに行くことの機会費用です。勉強しないで遊んでいたら、たとえば、勉強した分だけ将来の所得が上がる分を失っているので、遊ぶことには実際に支払う以上のお金がかかっている、ということになります。
このような機会費用も、経済学を学ぶことで強く意識することができる考え方の1つです。
緊急事態宣言で締め付けるか
正しい情報提供で自重を促すか
・人間の行動原則とインセンティブ
インセンティブを強く意識し、将来から現在を考える態度も経済学によって身につきます。その態度はやはり、人間の動きを理解する上で有効です。
コロナ禍において医療系の専門家の方々は「緊急事態宣言をしない限り、人は外に飲みに行くもの」と考えましたが、経済学者は「感染の危険性があり、感染したらこれだけ危ないのだと伝えれば、人はそれなりに行動を控えるもの」と考えます。
人は合理的に計算するので、感染するのが嫌だと思えば外に飲みに行く人は減るに決まっています。医療従事者の考えるほど十分には減らないかもしれませんが、それでもかなり減ります。
人間はそのような情報を伝達するだけで行動を変える、というのも経済学ならではの考え方だと思います。
医療系専門家の方々と考え方が違った点は、他にもいくつもありました。ワクチン接種が進んできた段階での出口戦略もその1つです。
行動規制の解除をいつ発表するかという議論になったとき、私は経済学者として「ある条件が満たされたら行動制限がなくなると伝えることで、人々は今、感染対策を頑張ってするようになる」と話しました。
たとえば、「ワクチン接種率が○○割を超えたら行動制限を解除できます」と言えばワクチンを接種する人が増えるでしょうし、「感染者が早く減ったら早く解除する」と伝えれば現在の活動を我慢する人が増えるでしょう。
人間は将来のことを考えて今の行動を決めている。それが経済学者の基本的な考え方としてあるからです。