経済学は問題解決のヒントから
社会の真理まで教えてくれる

 経済学を学ぶことで、社会の制度だけではなく、会社内や家庭内の問題を解決する仕組みをうまく作っていくための視点を得ることができます。代表的なものをいくつか挙げてみましょう。

・すべての目標は同時に満たせない――トレードオフ

 経済学者は必ずトレードオフ、つまり、一方を追求すると他のことが犠牲になる状態があるということを考えます。たとえば、皆が豊かになるようなインセンティブを多くつけると、不平等が拡大します。

 具体的には、非常に能力が高い人や成功した人の報酬を高くすると、能力の低い人、うまくいかなかった人の報酬が減るということですね。反対に、うまくいってもいかなくても、ある程度のお金をあげるようなかたちで保険を完全にすると、今度は皆のやる気がなくなってしまいます。そのようなトレードオフは必ず起こります。

 新型コロナウイルスの感染対策の話でいえば、感染者を最大限に減らすには誰も動かないのが一番よいわけですが、すると皆が貧しくなります。それなら活動をさせようとなれば、やはり感染は広がるでしょう(編集部/筆者は、2020年4月から23年8月まで、新型コロナウイルス感染症対策分科会の委員を務めていた)。

 考えるべきは、そのような状況下でどこを落としどころにするのかということです。経済学を学ぶことで、すべての目標を満たすことはできないという前提でどう考えるのか、という考え方を身につけることができます。

・選択しないことにも費用がかかる――機会費用

 トレードオフを考える裏側で、経済学者は機会費用について考えています。機会費用とは、「何かを選択することは、選択しなかったことについて生じている費用を支払っているということ」「ある選択をすることは、選択しなかったことの価値を失うこと」という考え方です。

 私たちは、実際にお金を支払った費用しか目に入りにくいですが、経済学では選ばなかった選択肢を失った分、費用を支払っていると考えるのです。