その迂回先の一つが「食道静脈」という血管。本来血液量が多くない血管に多量の血液が流れ、瘤を作り、それが破裂し吐血する…というのが、食道静脈瘤破裂の典型的な亡くなり方と言えます

「アルコール依存症」が
引き起こす様々な病気

 解剖の経験上、高齢男性がこうして亡くなる背景には、比較的共通する点があります。現役時代バリバリ働く会社員で、そこそこ高い役職についていたケースが多いのです。

 しかし定年退職後、それまでの功績も人脈もなくなったうえ、家
庭では邪険にされるなど肩身の狭い思いをする人もいるようです。

 さらに、もともとプライベートの友人や趣味が少ないとなると、寂しさをお酒で紛らわすようになる場合も少なくありません。

 お酒を飲んで暴言を吐いたり、暴力を振るったりしようものなら、ますます家族や友人は離れていき、さらに飲酒がすすむ…。こうしてアルコール依存症になる人が多くいます。

 もともとお酒に強いかどうかは関係なく、飲み続けることで耐性がついて依存性が高くなり、飲酒量が増えていくのです。

 アルコール依存症に陥ると、毎日お酒を多量に飲み続けることで、脂肪肝や肝硬変以外にも「膵炎」「アルコール性心筋症」「ウェルニッケ脳症」などの病気を引き起こしやすくなります。

 突然死の原因としては、肝硬変や食道静脈瘤破裂が代表的で、なかでも食道静脈瘤破裂は、周囲に黒い血液を吐いた状況が認められるのが特徴です。

 お酒には一時的にイヤなことを忘れさせ、多幸感をもたらす精神的効能はあるかもしれません。しかし、多量飲酒は肝臓だけでなく、脳、心臓、膵臓など全身各所に悪影響を及ぼします。また、感情にも抑制が利かなくなることで、家族に迷惑をかけ、下手すれば警察沙汰になることも珍しくありません。

 寂しさに負けないためにも、生涯続けられる仕事や趣味を見つけ、充実した第二の人生が送れるように、定年退職の前から計画を練っておくことも大切です。

【このような危険を避けるには…】
・定年退職後の人生設計を考える。
・酒量が増えたことによる症状があれば、早期に受診する。
・そもそもお酒は、ほどほどにたしなむ。