「日本人ファースト」が
行き詰まってしまう理由

「日本人ファースト」は、現在の日本社会における生活者の切実な問題意識を反映しており、その妥当性は否定できない。

 ただ、草の根運動であることで、1つの大きな弱点も抱える。それは出発点が「日本ファースト」=国ではなく、「日本人ファースト」=自分であることに起因する。

 たとえば、日本の少子化はかなり先鋭的になっており、すでに外国人労働者がいなければ成立しないものも増えている。

 たとえば、気仙沼、焼津、高知などの遠洋漁業は船員の高齢化が著しく、若年層が敬遠しているため、インドネシアやフィリピンなどからの技能実習生なしでは成立しなくなっている。
https://kakemochi.co.jp/member/number-of-indonesians-in-the-ssw-fishing-sector/
https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/content/000345045.pdf
https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/attach/pdf/210721-2.pdf

 また、北海道や三陸、九州などの水産加工工場について、外国人労働者が中心となっており、特に繁忙期は外国人労働者なしでは成り立たなくなっている。
https://www.maff.go.jp/hokkaido/toukei/kikaku/gurafu_gaiyou/attach/pdf/index-8.pdf

 同じようなことは農業や畜産業、建設業、中小の製造業、サービス、介護、コンビニなどの小売業などでも起こっている。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/02/0cf65b104e388ea1.html

 深刻な人手不足にどう対処するかが問われる中で、過激な「日本人ファースト」支持者が人手不足が著しい産業における外国人労働者の活用に拒否反応を起こすといった現象も生まれつつある。

 確かに、日本の経済安全保障や治安などを守るための政策として外国人問題に対応することは重要だ。外国人労働者の流入は日本社会に混乱を起こしつつあり、管理、監視、制限は絶対に必要である。

 だが、それが「外国人を使わなければ存続できない産業など潰してしまえ」「儲かっていない中小企業の自己責任」という主張にまでなると、それはもはや国益を損ねる排斥運動に近づいてしまう。

 それは、日本人ファーストが草の根運動であるからこそ抱えているリスクなのである。

 選挙中は「日本人ファースト」を声高に叫んだ参政党だったが、党首の神谷宗幣氏は2025年7月14日、高知市で記者団の質問に、「選挙のキャッチコピーだから、選挙の間だけなので、終わったらそんなことで差別を助長するようなことはしない」と述べている。

 神谷氏はこの発言について、後日、SNSで「公約を包括するキャッチコピーとして使うのはとりあえず今回の選挙期間中だけという趣旨で発言している」「選挙が終わった後も『日本人ファースト』の方針や公約は変えずに活動する」と発言が揺れている。

 これは、現実の政治としての草の根レベルの主張を、国政で実現することには限界があるからだろう。国の政策はいつも「国益」と「草の根」の綱引きの中で作られる。草の根がいつも国益と一致していれば簡単なのだが、多くのことがそうではない。

 スパイ防止法のような誰もが一致できる政策ならいいが、「外国人労働者の排斥」になると、成り立たない産業があることにも向き合う必要がある。選挙なら「溜飲が下がる」レベルの主張でいいのだが、国政で政策を実現させようとする場合は、国益を害することになりかねない。