
貢献度の低い
再生医療
6月にロート製薬の社長が交代した。杉本雅史氏(63)が退任し、新たに瀬木英俊氏(63)が跡を継いだ。最高研究責任者(CRO)のポジションを新設するなどマネジメント体制も刷新した。
同社をめぐっては、アクティビスト(物言う株主)である英投資ファンド「アセット・バリュー・インベスターズ」(AVI)が4月からキャンペーンサイト「ロート製薬の目を覚ます」を立ち上げ、経営の体制や方針の見直しを迫っている。ロートは創業者の曾孫である山田邦雄会長(69)の意向が経営方針に強い影響を及ぼしてきた。瀬木社長は山田会長の意向を汲みながら物言う株主の要求をどのように捌くのか。
126年の歴史を持つ老舗の製薬会社であるロートは、1909年に発売した「ロート目薬」がヒットし、日本を代表するOTC薬メーカーとして認知されるようになった。日本初となる商品を多く出し、溶かして飲む風邪薬「ドリスタン」や当時珍しかった美容サプリメント「セラシーン」を発売。日本初となる市販の妊娠検査薬を上市したのも同社で、「他にない」を求め新製品を開発してきた。
日本ヴィックス(現P&Gジャパン)を経て97年に入社した瀬木氏は、まさに次々と新製品が開発された時代に商品企画部へ配属され、しかも、販売、調達、コールセンターとの折衝、広告まで、会社業務をすべてこなした。さらに03年からは事業開発、国際事業に従事、米国で提携したスキンケア商品「オバジ」の事業で奔走し、ビタミンCブームに一役買った。米国以外にも欧州、インド、中国などで数多くの企業を訪問し、グローバルな視野で技術と事業をつないだ。
現在、ロートの売上高3086億円(25年3月期)の4割以上を占める海外市場での基盤構築に貢献、経営企画部長を経て役員に抜擢された。ちなみにロートでは役員も含めて自分でつけるあだ名があり、瀬木氏は「Seppy」(セッピー)だが、あまり使われることがなく、社員からは「瀬木さん」と呼ばれることが多いそうだ。
ロートは製薬業界のなかでは、OTC薬メーカーに分類されるが、実は収益の柱はスキンケア事業で全体の6割以上に達する。オバジのほかにも、「肌ラボ」シリーズは看板商品となり、基礎化粧品の販売数量でトップに位置する。見方を変えれば競合会社はコーセーや資生堂といった化粧品会社となる。山田会長は以前から「薬に頼らない製薬会社」という独自のスタイルを掲げており、スキンケア事業はその成功例といえる。
一方、同社はアイケア、スキンケアに続く「第3の柱」として再生医療事業に13年から本格参入した。変形性関節症や重症心不全で再生医療等製品を生み出そうとしているが、開発ステージは第II相試験段階でまだ上市には至っていない。前社長の杉本氏は、21年にオリンパスから膝関節の再生医療を手掛けるRMS(現インターステム)を推計15億円で買収し、開発を急いだが、同社の経営は芳しくなく赤字続きだ。
AVIから突っ込みを受けたのもこの分野で、ロートは年間数十億円を再生医療事業に投資しているが、資本コストを上回る投資リターンを回収するメドが立っていないと指摘された。ロートに対して「100年の大計」に目がくらみ、再生医療に固執し続けた結果、株主共同の利益が軽視されていると懸念。早々に再生医療について、「縮小・撤退」の方針を示すべきと迫っている。