あらゆる学びの場面で「記憶」は非常に大切だ。特に、受験勉強においては、一定量の知識を頭に入れておかないと自分の頭で考えることもできない。では、記憶力を高めるには、どのような方法があるのだろうか。高校に通わず、国語力を武器に東大文Ⅰへほぼトップ合格を果たした経験を持ち、現在は国語特化のオンライン個別指導「ヨミサマ。」を経営する神田直樹氏は、「記憶力を高めるのに、もっとも有効なのは『読む』こと」と語る。それはいったいなぜなのだろうか。本記事では、神田氏の著書『成績アップは「国語」で決まる! 偏差値45からの東大合格「完全独学★勉強法」』の内容をもとに、読んで覚えることのほうがいい理由について解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

成績アップは「国語」で決まる!Photo: Adobe Stock

「読む」こそ最強の記憶法?

 受験勉強の時、どのような方法で英単語や教科書内容を暗記していたか、覚えているだろうか。

 筆者は圧倒的に「書いて覚える」派だった。何度も何度も書き綴ることで、脳に彫り込んでいくような感覚で覚えていたように思う。

 その時の経験からか、今でも書いたほうが頭に入りやすい。

 しかし、神田氏は「記憶力を高めるのに、もっとも有効なのは『読む』こと」と指摘し、「だからこそ、国語力は記憶を大いに助けてくれるものです」と語る。

 書かないと覚えられない、くらいに思っていた筆者からすると、いまいち信じられない主張である。

 なぜ神田氏は、読んで覚えることを推奨するのだろうか。

記憶の「質」「量」「想起力」を支える読みの力

 読んで覚える効能の前に、まずは「記憶」とはどのようなものか。記憶の量と質について、神田氏は次のように説明する。

記憶には「量」と「質」という2つの側面があります。
量というのは、いかにたくさん覚えるか。(中略)
一方、質というのは、どれほど深く覚えるか。
仮に英単語を1万語暗記したつもりでいても、間違って覚えていたり、浅く理解しているだけの単語が多かったら、記憶の「質」という点では評価できません。
質に関しては、記憶にはもう1つの側面があります。それはどれだけ想起しやすいか、つまり、どれだけ思い出しやすいかです。(P.26-27)

 正しく覚えたものを、状況に応じて即座に、かつ自在に呼び起こせないと意味がないということだ。

 さらに、脳が情報を能動的に処理するやり方にはおもに、「①書く」「②喋る」「③読む」の3つがあるという。

 その中でも、神田氏は「『③読む』が記憶を効率的に強化してくれる」と主張する。

実験で証明された「読む」の速さと反復性

「書いて覚える」よりも「読んで覚える」ほうが優れていると語る神田氏は、その理由としてまずは、スピードの速さを挙げる。

「書く」「喋る」「読む」を、それぞれどのくらいの速さでできるか、制限時間10分で実験したのだ。

 実験にあたっては、運営する個別指導塾「ヨミサマ。」のインターン生である現役東大生数人に、生成AIに作らせた文章をもとに、それぞれ「書く」「喋る」「読む」をしてもらった。その結果は次のようになったという。

①「書く」
平均550文字
②「喋る(音読)」
平均3950文字
③「読む(黙読)」
平均1万500文字

 つまり、「書く」に対して「喋る」は7倍以上、「読む」は19倍の速さでできたと言える。

 小学校5~6年生で実験していても、やはり「読む」は「書く」の5~15倍のスピードでできたのだそうだ。

 さらに、「読む」スピードは「何度も繰り返すうちに上がっていくこともわかった」と語る。

「書く」より19倍速いことによるメリット

 書いて覚えてきた筆者としては、いくら速く読めたところで頭に残るとは思えない。むしろ、読み飛ばしてしまうことが多いからこそ、書いて覚えるのではないかと言いたいくらいだ。

 その点に関し、神田氏は「たしかに、『1回だけ書く』と『1回だけ読む』を比べたら、『1回だけ書く』のほうが記憶に残りやすいでしょう」と認める。しかし、神田氏は次のように主張する。

「読む」は「書く」のおよそ19倍のスピードでできますから、1回「書く」間に19回「読む」ことだって可能なのです。
では、「1回だけ書く」と「19回読む」では、どちらが記憶が定着しやすいでしょうか?(P.31)

 一度覚えたつもりのものも、時間が経つと薄れていくので、何度も覚え直すことが効果的という話を聞いたことがある人は多いのではないだろうか。神田氏はこの点について次のように語る。

「1回だけ読む」ことによる記憶の定着率が「1回だけ書く」より低かったとしても、何度も繰り返して「読む」うちに、「1回だけ書く」より、記憶の定着率は高められるのです。(P.32-33)

 そして何より、「書く」ことを1日に何十回も反復するのは大変だが、「読む」ことの労力はそれより軽いので、反復練習しやすいのだという。

 実際、神田氏は400ページほどある歴史の教科書や参考書を何度も繰り返し読むことで覚えたのだそうだ。

「何度も同じ教科書を読んでいるうちに、そのページの印象的な単語を数個目にしただけで、そこに何が書いてあるかを思い出せるようになった」というのだから驚きだ。

 たしかに、好きな小説は展開を覚えていたり、一部のシーンを読むとその先を思い出したりする。

 読むだけとはいえ、繰り返すことによって記憶には刻まれていくのだ。

手軽で速い、「読んで覚える」暗記法

 また、「書いて覚える」ことに対するデメリットとして、神田氏は「覚えようとしなくても書き写せること」も挙げる。

意味や読みがわからなくても「書く」ことはできるので、書いているだけでは理解している保証がありません。記憶に結びついている保証もないのです。(中略)
極端なことを言えば、子どもの塗り絵のように、お手本さえあれば、その内容を理解したり、覚えたりしなくても書き写せます。(P.37)

 確かにおっしゃる通りである。

 また、書くためにはノートやペンもいるし、机も必要だ。しかし、黙読であれば、テキストさえあればいい。場所も選ばず、手軽で早い。

 そう考えると、「書く」より「読む」ほうが圧倒的に効率が良いことも納得だ。

 繰り返し読んで覚えるという暗記方法は、受験生のみならず、忙しい社会人の資格試験の勉強などにも活用できるのではないだろうか。通勤時間の間に繰り返しテキストを読むだけでも、記憶の定着につながるのだから。

 最近英語の勉強を学生ぶりに再開したものの、まったく覚えられなくて頭を抱えていた筆者は、繰り返し黙読することから始めてみたいと思う。