シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

学びの集大成になる超おススメの方法・ベストワンPhoto: Adobe Stock

学びの集大成にもなる場

 本を読んだり、学校に通うだけが学びではない。

 気軽に学べて、しかも続けてきた学びの集大成にもなる場としておススメなのが、博物館をうろつくことだ。その国の力を表すのは、博物館の充実度である。

 まず、これらは相当な富の蓄積がないとできない。政府や富裕層がそれを実現し、その財産を次世代の教育のために提供する結果、生まれるものだ。

 そして、それを見学に来る大勢の子どもたちがいる、という前提が必要だ。つまり、公教育でも私教育でも、子どもたちに教育機会が充実していないと、博物館を作ったところで、知的好奇心や時間的余裕が子どもたちに十分にない場合、彼らが来て楽しめないので、そういうものは作られない。

 持続的なイノベーションを興し続ける国には、必ず素晴らしい博物館がある。

 5つ星ホテルや世界的建築家による国際空港があるのは、ピカピカに美しい新興国だが、そのなかで立派な博物館を持つ国は乏しい。

日本には、約5700の博物館がある

 博物館は学びの宝庫だ。博物館は科学、歴史、地理、宗教、文化などを統合したデザインになっていて、それこそドットがつながるリベラルアーツである。

 日本には約5700の博物館が存在する。人口当たりでフランスやイギリスより多い。東京にあるものもそうだが、地方都市にある博物館も結構充実している。

 日本の社会資本の分厚さ、教育の全人口への浸透を垣間見せるのが、日本全土にある博物館群だ。

 しかし、人口減少などによる経済的な衰退で維持費に苦しみ、残念ながら閉鎖になる博物館もある。

 宇宙が生まれ、地球が誕生し、生物が生まれ、それらが進化し、やがて人類が登場する。博物館は、その人類がいかにして食糧生産や移動の技術を開発し、すべての大陸に散らばっていったかを考えさせてくれる。

 その展示物から、人類だけが、目に見えないナラティブ(物語)を信じて、信じるからこそ独自の進化をしてきたことがわかる。

 ナラティブで国を創り、ナラティブで宗教を創って、人々をまとめてきたのだ。ナラティブでお金を創り、資本主義という、これまたナラティブでお金を増やして、資本の力で経済を成長させ、資本を使ってサイエンスを技術に変えた。

 ナラティブで政治と法という大勢の仲間の統治技術を創り、戦争を繰り返しながら国境線を画定させ、平和を実現してきた。

 平和はバランスでしかなく、そのバランスが崩れたら、画定したかにみえた国境線に挑むものが出てくる。

 主に人類は、戦争のために技術を開発してきた。火薬もロケットもインターネットも医学や疫学も、戦争が死傷者の治療などを通じて発展させた。

 現在の国民国家も公教育も社会保障制度も、総力戦のための兵士確保と、その育成とその保護のためにできた。そして我々は、今後は地球や太陽系を脱出できる可能性を持つ。

博物館をうろうろすることで、未来が見えてくる

 私は世界中の都市で時間があると、必ずその都市の博物館に行く。

 世界一の博物館大国アメリカは、人口当たりで日本の倍以上の博物館を持つ。サンフランシスコやニューヨークの自然史博物館は、素晴らしいので、ぜひ行ってみてほしい。

 また、日本の大学の多くも素晴らしい博物館を持っている。休日やスキマ時間に、一人でも、また家族連れでも、日本全国にある博物館、特に東京などの主要都市にある科学技術や自然史についての博物館をうろうろされることをおススメしたい。

 博物館をうろうろすることで、今までの学びがつながり、ぼんやりと未来が見えてくるかもしれない。

(本稿は君はなぜ学ばないのか?の一部を抜粋・編集したものです)

田村耕太郎(たむら・こうたろう)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。